NPO法人 イコールネット仙台
震災で改めて顕在化した防災に必要な女性の視点
掲載日:2017年12月13日
ブックレット番号:4 事例番号:43
宮城県仙台市/平成27年3月現在

 

「震災と女性」に関する調査からみえた現実

被災女性の経験や要望を明らかにするため、イコールネット仙台では宮城県内の居住する女性3,000人を対象に、「東日本大震災に伴う『震災と女性』に関する調査」を行いました。震災後半年という時期にもかかわらず、1,512人から回答を得ることができました。

 

調査の結果からみえてきたのは、被災した女性たちが直面している困難の大きさでした。例えば、避難所での設備の問題です。

 

(図1)のとおり、男女別の更衣室が設けられていたと回答したのは329人中72人、男女別の洗濯物干し場があったと回答したのはわずか13人でした。「着替えする衣服をもらっても着替えする場所なく着の身着のまま」、「狭いところに男女、子どもも全部一緒だった」などの自由記述からも、プライバシーへの配慮が行き届いていないことがわかります。また、子どもが遊ぶためのスペースがあったと回答したのは37 人、授乳室は14 人でした。「しきりも何もなく、授乳をするにも人の前でやるしかなかった」、「子どもがうるさいことや、夜中の赤ちゃん(当時2カ月)の泣き声が迷惑をかけないかとストレスだった」など、子育て中の母親への支援が疎かにされている状況も明らかになりました。

 

また、「災害が起こると、保育所やデイサービスなど、いつも利用している施設が機能しなくなり、仕事とケアの両立は途端に難しくなる。災害時の休暇制度の整備が求められている」と宗片さんは話しました。

 

そこには、自ら被災しながら、仕事も、家庭での介護や育児もしなければならない女性の苦しい立場があります。(図2)からは、「ライフラインがなかなか復旧しなかった(1,109人)」、「食料品や飲料水、燃料などが手に入りにくかった(1,078人)」という困難な状況のなか、「要介護の家族を受け入れてくれる施設がなかった(28人)」、「子どもを残して仕事に行けなかった。子どもを預かってくれるところがなかった(44人)」など、被災により介護や育児サービスが受けられないなか、女性たちは仕事も家族のケアも担わなければならなかったことがわかります。「家族のケアをしたくても仕事をしなくてはならない、行かなくてはならないことの辛さを感じ心ない言葉で傷つけたこともあった」、「子どもの預け先がなく、しばらく職場で子どもと寝泊まりさせてもらった」という記述は象徴的です。

 

このように、依然として育児や介護など、家庭でのケアが女性に偏っている状況が、震災を通じて明らかになったことを宗片さんは指摘します。

 

(図1)避難所での設備について

(図2)震災後の生活で直面した困難

 

このような調査結果をもとに、イコールネット仙台は平成24年9月に報告書と、調査をもとに改めて「男女共同参画の視点から見る防災・災害復興対策に関する提言」を作成しました。平成20年に実施した「災害時における女性のニーズ調査」をもとにまとめた提言に、震災後の調査から浮かび上がってきた女性のニーズを反映させ、より具体的な内容を追加したのです。

 

男女共同参画の視点からみる防災・災害復興対策に関する提言(2012)PDF

 

 

地域で活躍する女性の防災リーダーを育成したい

被災した女性たちは確かに苦しい状況に追い込まれましたが、彼女たちはその苦境に甘んじるばかりではありませんでした。

 

アンケートに回答した女性1,511人中、992人(66%)が震災発生時または発生後に被災者支援を行ったと答えています。その内容としては、(図4)のように、「食料や飲料水の助け合い(627人)」、「隣近所の安否確認(425人)」、「避難所の支援(378人)」など、地域に密着した支援を行っていることがわかります。この結果から宗片さんは、「防災や復興を男性の仕事と考えるのではなく、地域の実態をよく知る女性も主体的に防災・復興に参画することで、災害へのより良い対応が可能になる」と話しました。

 

また、調査では回答者の85%が「復興計画を議論する場に女性の参画は必要だ」と考えていることが明らかになりました。「子どもの生活や介護など災害弱者に関わる部分が多いのは女性」、「議論するのに男も女もない。年齢、性別、社会的立場など、さまざまな人の参画でなされるべき。市民や弱者の声や現状を知らない人が議論しても、机上の空論で本当の復興は望めない」などの声もあり、防災や復興の取組みに主体的に関わるべきだという意見が多くを占めました。

 

(図3)復興計画を議論する場に女性の参画は必要だと思いますか(N=1511)

(図4)どのような被災者支援を行ったか

 

そこで、イコールネット仙台では、平成25年に「女性のための防災リーダー養成講座」を開講しました。防災に関心のある仙台市内の女性を募集し、地域の防災リーダーを育てる取組みです。すでに第1期生はそれぞれの地域で積極的に活動しており、中高生が主体となった避難所運営のワークショップを企画した受講生もいます。災害が起こったとき、避難所にはどんな人が来て、どんな支援が必要になるのか。避難所の設計図づくりを通して、支援が必要になる人と実際に顔を合わせ、一緒に考えることで、地域全体で防災に取組むきっかけづくりになったと好評でした。

 

26年度には第1期生が主導する形で、第2期生を養成しています。また、宮城県登米市や岩手県陸前高田市などの周辺地域でも同様の養成講座が開かれ、イコールネット仙台では講師派遣等のサポートをしています。「地域に密着した女性の防災リーダーが各地で育ち、将来的には他のさまざまな分野でも、女性と男性が等しく運営に携われるような社会づくりにつながれば」と宗片さんは話しました。

 

      

講座の様子

 

第2期「女性のための防災リーダー養成講座」 講座内容

 

防災の取組みを仙台から世界へ発信する

平成27年3月には、第3回国連防災世界会議が仙台市で開催されました。国連防災世界会議は、世界の防災戦略について議論する国連主催の会議です。東日本大震災における経験や、防災・復興に関する取組みを国内外に発信し共有することで、世界の防災の取組みに貢献することを目的としています。

 

イコールネット仙台でも、会議での発表に向けて、東日本大震災で被災した女性への聞き取り調査の結果をまとめた冊子「40人の女性たちが語る東日本大震災」の一部を英訳する作業をすすめました。

 

震災後、イコールネット仙台の防災や男女共同参画実現に向けた取組みへの姿勢は、確実に変わったと宗片さんは話します。震災によって男女共同参画がいかにすすんでいないかを実感し、自分たちが積極的に行動に移さなければ何も変わらないと痛感したのです。「震災を経験した私たちには、この経験を活かすため、世界へ向けて発信する責任があります」と宗片さんは話します。震災の悲しみを胸に、次のステップへ踏み出すため、強い意志をもってこれからも活動をすすめていくと、力強く語りました。

取材先
名称
NPO法人 イコールネット仙台
概要
NPO法人イコールネット仙台
https://equal-net.jimdo.com/
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