右から:都立家庭・福祉高等学校 校長 富川麗子さん、
当日の介護体験の講師を務めた、照喜名竜彦さん、小林祥子さん、関朋子さん
令和3年度、北区西が丘に、都立家庭・福祉高等学校(仮称)が開校します。令和最初に開校する都立高校で、今年度末で閉校する都立赤羽商業高等学校の敷地に作られます。
「家庭・福祉」の名称の通り、家庭分野・福祉分野のスペシャリストの育成を目指す高校です。2学科3科が設置予定で、うち「家庭学科」には、幼児教育・保育系と栄養・健康系が学べる「人間科学科」と、調理師資格取得を目指す「調理科」があり、「福祉学科」には、介護福祉士国家試験受験資格取得を目指す「介護福祉科」が設置されます(学科・科名はいずれも仮称)。都内の大学等の協力を得て高大連携等を行い、探究活動を充実させるとともに、地域と連携してスクールレストランやボランティア活動を実施するなど、体験や実践的な学習を通じて生徒を育成していく方針で、現在、開設準備がすすんでいます。
東京都においては、都立高校の改革がすすんでいますが、今回、家庭・福祉学科のある高校が新たに設置される背景には、主に、喫緊の課題である保育・介護分野の人材育成や、専門分野での役割増加などの現状への対応があります。
都立高校において、卒業と同時に介護福祉士国家試験受験資格取得が可能な教育課程のある「福祉学科(科)」は、町田市にある都立野津田高等学校に次ぎ、2校目の設置となります。東社協の東京都高齢者福祉施設協議会(以下、「高齢協」)では、家庭・福祉高等学校からの依頼を受け、近隣の施設・事業所が学生の介護実習の受入れ先として協力することを予定しています。
8月23日(金)午前、入学すれば一期生となる中学2年生とその保護者を主な対象に開催された「サマースクール~プロの介護士から学ぶ『介護の魅力と体験』」の様子をお伝えします。
学んだ先にAIやロボットでは代替できない介護等の仕事がある
サマースクールには、北区や板橋区等の中学生13人とその保護者が参加しました。開会式では校長の富川麗子さんから挨拶と学校の紹介がありました。現在、日本は生産年齢人口の減少など急激な変化の時代にありますが、一人ひとりがこの時代を乗り越える力をつける必要があること等を背景に、学校改革が行われています。そうした中で、富川さんは「将来、AIやロボットで代替できない職業として残ると言われている仕事が、この学校で学んだ先にある。普通教科もしっかり学びながら、それぞれの分野のスペシャリストになれる学びを提供する」と説明しました。また、「一期生として、生徒会や行事を一から創りあげる貴重な経験ができる」と、参加者に対し、新設校ならではの魅力についても語りました。
プロから介護技術を学ぶ
続いて、介護技術等を学ぶ体験を行いました。講師は、北区にある(社福)泉陽会特別養護老人ホーム「新町光陽苑」の介護士兼相談員である照喜名竜彦さんと相談員の関朋子さん、東久留米市にある(社福)三育ライフ特別養護老人ホーム「シャローム東久留米」の介護福祉士、小林祥子さんの三人です。照喜名さんと小林さんは、高齢協の会員施設・事業所で働く若手介護職員が、自分たちの言葉で介護の仕事の魅力を伝える活動をする「東京ケアリーダーズ」のメンバーでもあります。
今回、中学生は2つのグループに分かれ、「高齢者疑似体験」と「車いす体験」を順番に行いました。
高齢者疑似体験では、まず、照喜名さんから、高齢になると「見えづらい」「聞こえづらい」「関節が動きづらい」などの身体の変化が起こるという説明を受けました。その上で、二人一組となり、高齢者役がゴーグルやヘッドフォン、サポーターや重り等を身につけて不自由な身体を疑似体験し、もう一人が介護者役となり、廊下や階段を歩く体験をしました。照喜名さんと小林さんは見本を見せながら、高齢者と接する際の姿勢、動きに応じた介護者の立ち位置等、介護技術を伝えました。
階段での高齢者疑似体験の様子
車いす体験では、体育館やスロープ等で車いすの操作方法等を学びました。講師の関さんは、介護者は一つひとつの動作に移る際に「前にすすみます」等と必ず声をかけること、その理由として「車いすを押してもらう方は自分が想像する以上に不安を感じている。安心して身を委ねてもらえるよう、声かけ等を通じて信頼関係を作ることが何より重要」と説明しました。
体育館での車いす体験の様子
生徒たちは、初めは緊張した表情で、高齢者役での動きづらさに驚いたり、ぎこちない介助を受け「怖い」という声も上がりました。しかし時間が経つにつれ、声かけや介助も自然になり、徐々に笑顔が見られ、積極的に学んでいました。保護者もそれぞれの体験に同行し、そうした生徒の様子を温かく見守っていました。
大変ではあるが介護は高齢者と一緒に感動できる仕事
体験後には、まとめの時間がありました。照喜名さんは「介護の仕事は楽しいだけでなく大変なこともある。だが高齢者と一緒に感動したり成長したりできる素晴らしい仕事だ」と言います。また、施設で行っている行事の写真等をスクリーンに投影し、「家庭で過ごすのと同じように、季節を感じられる当たり前の生活を支援している」と語りました。
最後に富川さんは「こうした体験を積み重ね、技術を含めてさまざまなことを身につけることが、介護を受ける方の気持ちや自分の将来を想像し、考えることにつながる」と話し、今回の体験を通じて得た学びをもとに、進路を考えてみてほしいと呼びかけました。生徒と保護者は最後まで真剣に耳を傾けていました。
終了後のアンケートには、「以前より介護の仕事に興味がわいた」「今後困っている人がいたら手伝いたい」「大切なことを学んだ。この高校ができるのを楽しみにしている」等の感想がありました。今回のサマースクールは、中学生にとって将来の進路の選択肢に「介護」が入る、一つのきっかけになったようです。
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