旭出調布福祉作業所
(右から)
所長 八重樫央行 さん
事務長 吉川利英 さん
サービス管理責任者 三浦悦子 さん
作業担当 松田治代 さん
調布市にある社会福祉法人大泉旭出学園旭出調布福祉作業所は、一般就労への移行に向けた支援を提供する就労移行支援事業と通所により就労や生産活動の機会を提供する就労継続支援B型事業を運営する多機能型事業所です。就労移行支援事業は2名、就労継続支援B型作業所は63名の主に知的障害のある利用者が活動しています。
「利用者が主役になれる支援を提供する」という運営方針に基づき、利用者支援を工夫しています。自ら作業所に来て働きたいと思えるような利用者のやる気を引き出す支援を意識し、利用者自身も「働きにきている」という意識が高い人が多くいます。衣服についた埃や塵を取り除くエアシャワーで五感を使いながら衛生管理の意識を深めたり、作業室には青色、食堂にはオレンジ色など事業所全体に色彩心理効果を取り入れる等、働く環境づくりにも力をいれています。
新型コロナ対策のための新たな対応
令和2年3月以降、職員と利用者に対し毎日の検温や消毒のほか、作業時間の短縮や、更衣室や食事のスペースの人数制限などの感染対策を行っています。
利用者の中には、障害の特性によりマスクへの抵抗がある、ソーシャルディスタンスの理解が難しい、おしゃべりが大好きといった方も多く、感染症対策への意識の定着には注力しました。手洗いの場面で職員がサポートするほか、ポスターを貼って視覚的に訴え、その必要性を利用者に考えてもらうような問いかけを繰り返しました。これにより徐々にその意識が根付いてきています。
疾病を重複している利用者もいるので、利用者や家族は感染への不安を抱えています。国から示された「新型コロナウイルスへの対応に伴う就労継続支援事業の取扱い等について」において、在宅等での柔軟な取り扱いが認められ、希望する利用者には在宅でのサービス提供を行いました。多い時には在宅作業をする40名の利用者に職員から1日2回の電話連絡を行いました。「職員にとってこれまでにない仕事に多くの時間とエネルギーを使う大変さの反面、電話でのやり取りがあったから安心できたという家族の声もあり、コロナ禍の不安を少しでも和らげることができた」と施設長の八重樫央行さんは話します。
新型コロナの感染状況による作業時間の変更や事業所の感染対策等に関する家族への連絡は、その都度プリントを通じて行っています。平成17年の開所当時から、台風が近づいている時などはプリントを通じて事務所の対応を伝えていたため、今回も新型コロナの感染拡大の状況に関する報道を見た利用者や家族が予想できており、大きな混乱は見られませんでした。
工賃の半減や行事の中止による作業の質や生活の質への影響
新型コロナによる社会状況の変化により、工賃の減少や事務所の収入減少、職員体制などさまざまな影響がありました。一人あたり最大月額16000円だった工賃は、緊急事態宣言の影響を受け、令和2年度は月額8100円に減りました。単価の安い宅配産業の軽作業は一定の仕事量があるものの、作業の主力であった贈り物の菓子を生産する企業からの受注が減ったこと等が、工賃へ影響しました。就労移行支援事業でも、就職説明会が軒並み中止となり、企業の経営悪化の影響を受けて新規採用につながる門は狭くなりました。運やタイミングに恵まれてコロナ禍でも内定や実習につながった例もありますが、そうした機会は大きく減っています。
また、働いて得た工賃を使う場でもあった作業所主催の宿泊旅行やイベントの開催は中止となりました。「一生懸命働いて、遊んでリフレッシュというメリハリがあるからこそ利用者は作業を頑張れる。自分自身で気分転換することが難しい利用者も少なくないため、こうした行事の中止は利用者の作業の質や生活の質へも影響があったと思う」と八重樫さんは話します。令和3年5月中旬から、ルートや人数に制限はありますがクラブ活動の散歩クラブを再開させたところ、利用者の半数から希望がありました。
このほか、毎年利用者と家族との面談を経て作成していた個別支援計画をプリントや電話のやりとりでの作成に変更しました。年3回実施する家族連絡会も令和2年度は全て中止となり、直接お話しする機会が大幅に減ってしまいました。
3年4月に感染対策を講じて開いた家族連絡会には約半数の家族が出席しました。「集まる不安がある中でも、どんな環境で働いているか、どんな対策がなされているか実際に見たり直接話を聞いたりすることで安心する部分があったのではないか」と八重樫さんは感じています。
さらに、新型コロナの感染拡大によって職員の退職や採用内定辞退も度々ありました。仕事の性質上、職員が在宅勤務でできる業務は少なく業務の継続に不安に感じた職員もいました。福祉業界全体で人材確保に苦労している中、さらに厳しい状況になっています。
地域の人々との交流の場となっていた喫茶店も、外部からの新型コロナの感染リスクを抑えるため、また、利用者がより広い場所で昼食をとれるように閉店しています。「子どもが遊べるスペースがあり、施設を見学する方もいた。利用者は自分が働いている姿を見てもらうことで張り合いにつながっていたが、コロナ禍で地域の人との距離が広がりつつあるのは残念だ」と八重樫さんは話します。関係者だけでなく地域の人々にも「この施設があってよかった」と思ってもらいたいと頑張ってきた経緯があるので、八重樫さんはいつか再開させたいと考えています。
今まで以上に利用者の居場所となる事業所のあり方を模索する
八重樫さんは「当初は、コロナが収束する前提で対応を考えていたが、これから感染症とどのように付き合っていくかという視点で考えていく必要がある」と話します。更衣や食事等の作業以外の時間が今までの倍近くになっている現状を考慮した日課の組み替えを行う予定です。
そして、作業所が求められる役割も変わってくると考えています。今までは利用者により高い工賃を提供することを優先してきましたが、これからは今まで以上に利用者のひとつの居場所としての役割やコロナ禍における安心とのバランスを取りながら活動していくことにも重きを置いて事業を展開していく必要があると考えています。利用者家族へのアンケートの結果もふまえて、コロナ禍でも利用者が主役になれる作業所としてのあり方を模索していきます。
菓子の詰め作業の様子
菓子の箱折り作業の様子
http://www.chofufs.jp/index.html