多文化共生センター東京のスタッフの方々
写真右が代表理事の枦木典子さん
認定NPO法人多文化共生センター・・・「国籍や言語、文化の違いをお互いに尊重する社会を目指す」ことをビジョンに掲げ、高校への進学支援を中心に「たぶんかフリースクール」の運営、多言語による高校進学ガイダンス等を行っています。
認定NPO法人多文化共生センター東京(以下、多文化共生センター東京)は、平成13年に設立され、高校への進学支援を主として、外国にルーツのある子どもたちの教育支援を行っています。代表理事の枦木(はぜき)典子さんに活動と活動を通して見えている課題を伺いました。
活動の概要
法人設立当初より「日本語を母語としない親子のための高校進学ガイダンス」や学習支援教室「子どもプロジェクト」をスタートさせ、平成17年には「たぶんかフリースクール」を荒川区内に開設しました。その後、荒川区の委託事業で、来日後間もない区内の中学校に通う生徒が対象の「ハートフル日本語適応指導事業」やボランティアによる土曜日「親子日本語クラス」など、複数の活動を開始しました。土曜ボランティア活動では、子どもたちに遅れがちな教科の学習をはじめとしたサポートを行い、親には学校のお便りや役所の書類等の説明を通じて日常生活もサポートしています。ボランティアは学生からシニアまで、年齢も国籍も多様です。中には、子どもの時に学習支援を受け、社会人になってからは、教える側で活躍している人もいます。
また、「たぶんかフリースクール」は、公教育の狭間で支援がない子どもたちに学ぶ場や居場所を提供しています。母国で中学校を卒業して高校進学をめざす学齢超過の子どもたちや、来日して日が浅く日本語の初期指導を必要とする子どもたちが学んでいます。毎週火曜日から金曜日まで日本語、数学、英語を学校と同様に時間割を組んで学びます。子どもたちは日本語のレベルに合わせてクラス分けされ、元教員や日本語教師養成講座修了者等が教えています。日本を含む20数か国の国籍の子どもたちが、毎年50~60名通学しています。学校以外で学校のように学べる場所は限られているため、埼玉県や千葉県なども含め、都内外から通う生徒が多くいます。荒川校のほかには杉並校があり、開設以来約700名の生徒が卒業し、高校へと進学しています。
「たぶんかフリースクール」授業の様子
外国にルーツのある子どもたちが抱える課題
日本に住む外国にルーツのある子どもたちは、年々増加傾向にあります。文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査結果」(令和2年)によると、「学齢相当の外国人の子供の住民基本台帳上の人数」は12万3千830人(小学生相当+中学生相当)、「不就学の可能性があると考えられる外国人の子供」は約2万人いるとされています。
このような状況の中、彼らの抱える課題として、枦木さんは「言葉の壁、制度の壁があり、外国にルーツのある子どもたちは、日本で教育を受ける権利が十分に保障されていない」と指摘します。憲法、教育基本法では、「国民」は義務教育が保障されています。一方、外国籍の子どもたちに教育を受けさせることは義務ではありません。
現在の制度では、来日した時に学齢(14歳以下)であれば、希望すれば日本の公立小学校、中学校へ編入することができるとされています。しかし、日本語が十分でないことを理由に義務教育につながらない不就学の小中学生も多くいるのです。また、母国で義務教育を終えた15歳以上の子どもや高校生だった子どもは公的に学べる場が少なく、情報の少なさや受験要件の複雑さのため、高校進学が難しい現状があります。日本には、学びたくても学ぶ機会がない子どもたちがいるのです。この子どもたちを多文化共生センター東京や、さまざまな民間団体が支援しています。「現在の日本では、高校に進学しなければ将来の選択肢が少なくなる。今後、日本社会で長く生きていく彼らにとって切実な問題だ」と枦木さんは語ります。
また、多文化共生センター東京では、教育に関するさまざまな相談を年間280件ほど受けています。例えば「日本語を学ぶ場所はどこにあるか」といった親からの相談や、不登校の子どもについてスクールソーシャルワーカーからの相談などがあります。
新型コロナによる影響
令和2年から感染拡大している新型コロナにより各活動に影響が出ています。「日本語を母語としない親子のための高校進学ガイダンス」は予約制に変更したため、通常は1回に200人ほど来場していた参加者が、4分の1程度に減少しました。「たぶんかフリースクール」では授業時間数を減らし、アクリル板を机に設置する等、感染症対策を施して授業を行っています。また、企業からの支援を得てオンラインでの授業実施に向けた準備も始まっています。
他方、両親が飲食店で働いているなどで経済的に影響を受けている家庭からの生活に関する相談も増えています。「関係機関とのネットワークを活用しながら相談に対応している。コロナ禍になり、昨年は休校していた期間もあった。より孤立しがちな彼らとつながっていられるようにしたい」と枦木さんは話します。
子どもたちは多様な可能性を秘めている
枦木さんは「法人設立当時、外国にルーツのある子どもたちの存在は、まだ社会に広く認識されていなかった。2010年代に入り、メディアで外国にルーツのある子どもたちの問題が取り上げられるようになり、支援団体も徐々に増えてきた。最初は同じ国のコミュニティ内で私たちの活動が伝わり相談が入っていたが、現在は自治体の多文化共生担当部署や東京都教育相談センターなど幅広い関係団体から相談が入るようになった」と語ります。一方で「今でも体制は十分に整っておらず、多くの課題がある」と話します。それは、やさしい日本語や多言語による発信、学習支援のための場所の確保、人材育成、教材やプログラムの整備、高校進学後、卒業後のサポート等です。これらに対し、多文化共生センター東京では、専門用語の多い数学や理科について「多言語学習用語集」の作成や、東京都教育委員会との協働事業として令和2年から実施している「在京外国人枠校(※)への多文化共生教育スクールコーディネーター派遣」を通して高校に進学した生徒のサポートを行っています。
「外国にルーツを持つ子どもたちは、多様性にあふれ、社会で活躍できるあらゆる可能性を持っている。そんな彼らと一緒に地域を創っていくことは、社会の活力になり、豊かさにつながっていくと思う。これからもさまざまな団体と連携し支援していきたい」と枦木さんは話します。
(※)都立高校のうち8校では、在京外国人生徒対象の入試を行っている。
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