Ⅱ 重層的支援体制整備事業の実施状況
(1)ひきこもり相談窓口(仮称)の設置
世田谷区では、全区レベルで課題になっているひきこもり支援に対応するため、令和3年度に「ひきこもり支援に係る基本方針」を策定し、重層的支援体制整備事業を活用した「ひきこもり相談窓口(仮称)」の設置を進めることになりました。現在、令和4年4月の開始を目指して準備中です。
ひきこもりの相談は、さまざまな入口から入ってきます。地域の中で地区担当職員が発見したケース、あんしんすこやかセンターが高齢者の支援に入った世帯にひきこもりの家族がいたケース、区内5か所の地域障害者相談支援センターに寄せられた、障害は特定されていないが何らかの生きづらさを抱えているケース、さらに、経済的な問題を抱えており、ぷらっとホーム世田谷に相談が入るケースなど、多くの支援機関が窓口になっています。いずれも親、親族、支援者からの相談が多く、本人と会うまでには時間がかかるケースがほとんどです。そのため、最初にどの支援機関が入ってアプローチするのか、機関間の役割分担が不明確でした。また、複雑化・複合化しているものが多く、相談を受けた機関がどこにつなげばいいのかわかりにくいことも課題になっていました。そこで、ひきこもりの相談窓口を明確にするため、重層的支援体制整備事業の多機関協働事業として、ぷらっとホーム世田谷が各機関に寄せられた相談を整理するとともに、支援機関同士の連携を強化する役割を担うことになりました。また、アウトリーチを通じた継続的支援事業はメルクマールせたがやが実施し、ぷらっとホーム世田谷とともに相談窓口の運営を担います。
ひきこもり相談窓口の運営のため、ぷらっとホーム世田谷には令和4年度から常勤職員2名が増員され、窓口での相談受付を行い、メルクマールせたがやと共にアセスメントと支援内容の検討、関係機関との調整を行います。現在は準備期間として、週に2日程度、メルクマールせたがやに配置された精神保健福祉士がぷらっとホーム世田谷に来て、一緒にケース対応を行いながら開設後の相談支援の準備に取り組んでいます。令和4年度からは、この2団体と就労支援機関の「せたがや若者サポートステーション」が同じ建物内に入ることで、より密に連携を取りながらひきこもりの支援をすることが期待されています。
(2)ひきこもり相談窓口における多機関協働事業
ひきこもり相談窓口の運営が始まると、各支援機関でキャッチした相談は、ぷらっとホーム世田谷で受け付けます。その後、ぷらっとホーム世田谷とメルクマールせたがやが一緒にアセスメントを行い、支援プランを作成します。必要に応じて他の支援機関と連携を図り、支援会議等を開催し、支援体制を構築していきます。
メルクマールせたがやは、これまで39歳までという年齢制限がありましたが、ひきこもり相談窓口開設と共に年齢制限を撤廃することになりました。心理職などが配置されており、医療的なアプローチを得意としていますので、専門的な支援はメルクマールせたがやが、生活課題の解決はぷらっとホーム世田谷が関わることになっています。また、その方を地域の中で生活を支える体制については、ぷらっとホーム世田谷が、社協の地区担当職員と考えていくことになると考えています。
(3)ひきこもり支援機関連絡協議会(仮称)と支援会議
ひきこもりの支援に関わる機関は「ひきこもり支援機関連絡協議会(仮称)」を構成します。想定されている支援機関は、ひきこもり相談窓口(ぷらっとホーム世田谷とメルクマールせたがや)のほか、あんしんすこやかセンター、保健福祉センター、地域障害者相談支援センター、障害者支援機関、就労支援機関、教育委員会、学校等教育機関、医療機関などです。連絡協議会はぷらっとホーム世田谷が主催する予定です。
また、現在、ぷらっとホーム世田谷では、生活困窮者自立支援制度の会議体として、支援会議と支援調整会議を開催しています。支援調整会議は5地域ごとに月に1回ずつ、支援会議は必要があるときに開催することになっています。これまでは、生活困窮者自立支援制度の会議でひきこもりのケースを検討してきましたが、今後、ひきこもりについては別建てで、重層的支援体制整備事業の支援会議または重層的支援会議として開催することを想定しています。ぷらっとホーム世田谷が音頭を取り、メルクマールせたがやと調整しての開催になると考えられますが、これから、生活困窮者自立支援制度の会議との整理を行います。
(4)ひきこもり支援における社協内連携
世田谷区社会福祉協議会には、ひきこもりの相談者を地域の生活者として支援をする地区担当職員の部署とぷらっとホーム世田谷や成年後見センター「えみぃ」、ファミリーサポートセンターなど、専門的に関わることのできる部署の両方があります。社協以外の機関との連携も大切ですが、社協内で連携できることが強みです。ぷらっとホーム世田谷に相談が入ったケースについて、地域に居場所ができてくれば、地区担当職員に引き継ぎ、ぷらっとホーム世田谷としての支援は終了します。地区担当職員から見ると、内部に専門分野に強い部署があることは、支援を検討する際に頼りになります。世田谷区社協では、重層的支援体制整備事業を活用することで、これまで実施してきた地区担当職員による支援と新たに始める「ひきこもり相談窓口」の支援をつなげて、さらに充実した体制を目指すことができるようになると考えています。
【世田谷区における重層的支援体制整備事業の5つの事業】
① 包括的相談支援事業
まちづくりセンターにおける福祉の相談窓口
ぷらっとホーム世田谷等各支援機関の運営
② 地域づくり事業
社会福祉協議会の地区担当職員の取組み等
ぷらっとホーム世田谷でも、フードパントリー等の食の支援のしくみづくりに取り組んでいます。
③ 多機関協働事業
「ひきこもり相談窓口」の運営
・相談受付、アセスメント、支援内容の検討、関係機関の調整
・ひきこもり支援機関連絡協議会や支援会議、重層的支援会議の開催
・精神保健福祉士や家計改善支援員の相談
家計改善支援は、生活困窮者自立支援制度の中で実施されてきましたが、コロナ禍で生活困窮世帯が掘り起こされたこともあり、今後利用が増すと考えられます。
④ アウトリーチを通じた継続的支援事業
メルクマールせたがやによるアウトリーチ
日常生活支援アドバイザーの定期的な訪問と生活上のスキルの助言
アドバイザーは委託契約で、ケアマネジャーや介護指導員などの経歴をもった方にお願いしています。アドバイザーの支援は3か月程度が目途であり、継続的な支援が必要な場合は、介護保険や障害の総合支援のサービスにつなげることになります。
⑤ 参加支援事業
若者サポートステーション等の就労支援機関の活用
地区担当職員による本人のニーズに応じた参加支援メニューの開発とマッチング
(5)今後の課題
「ひきこもり相談窓口」として同じ建物に集まった3団体は、よって立つ根拠法や成り立ちが異なるため、円滑な相談体制をどのように構築していくかが課題となります。また、若者サポートステーションで実施している就労支援事業は、厚生労働省の他事業であるため、生活困窮者自立支援事業と併用できないことも課題です。
体制にも不安があります。今後、多くのひきこもりのケースの相談が「ひきこもり相談窓口」につながってくることが想定されますが、対応する職員として予算化されたのは常勤職員2名分です。あんしんすこやかセンターや地域障害者相談支援センターなど、ほかの支援機関もたくさんの相談を抱えている状態で、お互いに余裕がありません。社協の地区担当職員については、現在は人口に関係なく、どこの地区も常勤職員1名、非常勤職員1名の配置となっていますが、1万7千人の地区から6万3千人の地区まであり、人員体制のバランスが問題になっています。
また、あわせて職員の意識向上や支援技術のレベルアップも望まれます。ひきこもりの人を地域で支える取組みそのものは、社協が得意とするところです。しかし、これまでやってきたことを続けていくだけではなく、オーダーメイドの支援ができるようセンスと資質の向上に努めていく必要があります。そのために、職員の育成には力を入れていきたいと言います。
ひきこもり支援は解決までに年単位での長い関わりが必要です。支援を続ける中で、支援者やその組織の体制が変わることもあります。重層的支援体制整備事業を活用した、継続した支援が可能な体制づくりが求められています。
【この記事に関するお問い合わせ】
東京都社会福祉協議会
地域福祉部/地域福祉担当
TEL. 03-3268-7186