(左から)NPO法人SDGsいたばしネットワーク
理事長 加藤 勉さん 事務局次長 小倉 和子さん
あらまし
- 今号では「知る」「つながる」という視点から、自治体のエリアを超えた「荒川流域防災住民ネットワーク」の取組みについて紹介します。
- 東京23区東部を縦断する一級河川「荒川」の氾濫を想定して、上流の埼玉県から下流の江東5区まで、流域の住民やさまざまな団体が、自治体のエリアを超え「誰も取り残さず早期避難する」ことをめざす「第2回荒川流域防災住民ネットワーク2022」が2022年11月に開催されました。この企画の呼びかけ人で実行委員でもあるNPO法人「SDGsいたばしネットワーク」の理事長の加藤勉さんと事務局次長の小倉和子さんにお話をうかがいました。
きっかけは2019年の台風19号
SDGsいたばしネットワークは、国連発のSDGsの基本理念である「誰も置き去りにしない・されない」を実現するため、一人ひとりの思いをつなげ、希望の未来を子どもたちに引き継いでいくためにさまざまな地域活動に取り組んでいます。
そんな中、19年10月に台風19号が関東地方に上陸し、甚大な被害をもたらしました。多摩川・千曲川等が氾濫したこの時の豪雨で巨大河川荒川の水量もみるみる増して、あと50数㎝で堤防を越えるところまで迫りました。加藤さんは「荒川の危険性については、事前に知っていたつもり。しかし、この台風以来、荒川の洪水や堤防決壊は現実のものとしてすぐにでも起こるという恐怖感と、このままではダメだという切迫した危機感を持った」と話します。
台風19号通過直後の荒川の様子(新河岸地区)
荒川流域の住民は運命共同体
加藤さんたちは、板橋区では荒川氾濫を想定した避難体制という地域課題があることに気づき、「SDGsまちの学校高島平」で浸水想定地域の住民に呼び掛けて、防災訓練やシリーズの学習会を行いました。そして、「これは板橋区だけの問題ではなく、荒川流域自治体共通の問題ではないか、流域住民が協力していくことが必要ではないか」という思いに至り、荒川流域の住民や関係者が自治体の枠を超えて、当事者の立場でつながり、知恵と力を出し合って、具体的に問題の解決をめざしていく「荒川流域防災住民ネットワーク」を21年に立ち上げました。「荒川流域の住民は運命共同体だ」「SDGsの視点で、犠牲者を誰一人出さないよう、障がい者や高齢者など要援護者の助け合いの具体策を生み出していこう」というメッセージはエリアを超えた多くの方から共感を得て、21年11月に「第1回荒川流域防災住民ネットワーク」が板橋区内で開催されました。
「第2回荒川流域防災住民ネットワーク2022」の取組み
21年の第1回に引き続き、22年11月に「第2回荒川流域防災住民ネットワーク2022」が板橋区内で開催されました。
実行委員会形式で、地元板橋区だけでなく流域の町会・NPO法人・市民団体などと共に準備をすすめました。自治体・医師会・消防関係等の多くの関係者や団体からの協力と支援もありました。
当日は会場に大勢の人が集い、リモート参加も含めて参加者は150人(所属団体は60)を超えました。午前中の全体会では、トークセッションで西日本豪雨の被災者から体験談を聞いたり、大学生による荒川上流から下流までの映像体験が紹介されたりしました。午後の分科会では、要援護者・外国人・地区防災計画といったテーマの下で早期避難実現のための「自助・共助・公助」による避難のあり方などについて意見交換が行われました。
加藤さんは「荒川上流から下流までの人たちが、当事者の立場で集い、現状と課題を共有し、知恵を出し合う場になった。今後も荒川流域で開催することで、誰も取り残さない早期避難は実現可能になると確信している」と話します。続けて「今回は大東文化大学を中心に都内外の多くの大学生から参加・協力を得ることができた。若い人たちの横のつながりは我々の想像以上の力があった。なによりも彼らの防災・減災への関心の高さがうかがえたことは大きな収穫」と振り返ります。
小倉さんは「避難行動のための支援をどのようにすればよいのか、知る機会がない人は大勢いる。今のままでは障がい者や高齢者の避難は家族や関係者だけの課題になってしまう。町会や地域住民のルーティンとして誰もがあたりまえに避難支援ができるようにならないと、助かる命も助からなくなる。自治体と協働でしくみや制度を整えなくてはならない」と話します。さらに「このネットワークに多様な立場の人が参加し、多様な気づきが生まれることがルールづくりのきっかけになるのではないか」とも話します。
「ネットワーク」イベントチラシ |
第2回荒川流域防災住民ネットワーク2022 当日、会場の様子 |
今後の展望
近年、日本各地で大雨による水害や土砂災害が頻発しています。加藤さんは「日本各地には無数の河川がある。それぞれの地域の取組みやアイデアを惜しみなく出し合って、共有できるようになるといいと思っている。そのためのネットワークづくりも今後取り組んでいきたい」と話します。
また、「地震災害と違って、風水害は現在の気象予報技術によって、防災・減災のために必要な時間をつくり出してくれている。この時間をどれだけ有効に活用するかは、人間の意志と知恵と行動によるものだと思う。そのためにもこういった取組みを継続することには大きな意味がある。さらには風水害対策と地震対策の相関性をつなげ、取り組んでいきたい。第3回(2023年11月19日・会場は北区)開催に向けた準備が始まっている」と、今後の展望を語ります。
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