あらまし
- 2021年に厚生労働省が実施し全国調査により、社会的養護経験者「ケアリーバー」の厳しい状況が明らかになりました。法制度が継続的な自立支援に向けて動く中、ケアから離れた後も自立して暮らし続けるために必要な取組みは何か。今回は、児童養護施設退所者支援を中心に、児童養護施設と民間団体の取組みを通じて考えていきます。
ケアから離れた後に、求められる支援
ケアリーバー。児童養護施設等への入所措置や里親委託等が解除された社会的養護経験者を指します。コロナ禍の21年に厚労省により実施されたケアリーバーに関する全国調査(※1)では、ケアから離れた後の厳しい状況や課題が浮き彫りになりました。東京都の調査(※2)からも、回答者の15%が経済的理由から医療機関を受診できなかった経験があることや「退所後に相談できるひとがいない」という声が明らかになっています。何より、全国調査の対象者2万人以上のうち、居所や連絡先の不明等を理由に案内ができなかった人は6割にのぼるという結果でした。
現在、継続的支援の制度が整い、児童養護施設では20歳までの措置延長、22歳年度末までの入所支援継続が可能となっています。また、22年6月に成立した改正児童福祉法では自立支援の年齢要件等の弾力化や、通所や訪問等の支援拠点によるケアリーバーへの支援の必要性が明記され、退所後も切れ目のない支援が一層求められてきています。そうした動きの一方、都内児童相談所の一時保護所における年間平均入所率は100%超が常態化、施設等においては職員の異動や人材不足等があり、一人ひとりに応じた継続的な自立支援という点ではさまざまな課題が存在しています。
※1「児童養護施設等への入所措置や里親委託等が解除された者の実態把握に関する全国調査」
※2「東京都における児童養護施設等退所者実態調査」
「子供の家」として退所者とつながり続ける~社会福祉法人子供の家 児童養護施設子供の家
「子供の家」では、子どもたちの意向を聞きながら一人ひとりの自立と向き合っています。各制度の活用や児童相談所等と連携しながら、高校卒業後も希望に応じて22歳までいられることを標準としています。入所中に自立支援担当職員や心理職等が中心に多職種が関わり、自立に向けた課題の整理や、悩みや不安の振り返りを行い、退所後の生活のイメージを共につくっていく機会を設けています。
退所後の支援としては、LINEを通じた施設情報や誕生日等のメッセージ配信に加え、必要に応じて連絡や訪問など、状況に沿った取組みを展開しています。新たに、退所者の好み等に基づいた物資や関わりのある職員のコメント等を定期的に届ける“ふるさと便”も検討されています。
しくみとしての退所者支援に向けて
退所後支援の方針や具体的な支援について、施設として実施要項を定めて職員に共有がされています。施設長の早川悟司さんは「退所後支援における児童養護施設の役割が法で位置づけられたときも、支援の基準や期間、具体的な取組みは示されなかった。曖昧であると、支援が個々の職員の意識や裁量に依るものとなる。職員の異動や退職を前提に継続的に支援するためには、属人的ではなく、しくみとして施設で取り組む必要がある」と強調します。退所者支援の計画書を通じて、施設だけではなく児童相談所等とも支援の振り返りや評価、状況の共有ができるよう可視化されています。
一方、「『〇〇さんだから相談できる』という退所者の声がある。やはり退所者にとっては「人」でつながっているので、その支援をどうやって仕組みに戻すかが課題」と自立支援担当職員の渋谷巧さんは実感しています。職員が入れ替わる中で、SNSの活用や行事等を通じて徐々に顔見知りになっていき、退所者が新たなつながりをもてるよう働きかけることが大切であるといいます。
地域での暮らしに向けたステップ
20年から「ステップルーム」として施設の近隣にアパートを借り、退所後を見据えて一人暮らし体験を重ねる事業を実施しています。現在7軒9部屋を確保し、利用期間は1週間から最長1年を基本としています。一人暮らし体験により、戸締まりや調理の仕方など、施設から離れて気づく課題やニーズを利用者、職員双方で共有することができるといいます。また、「退所後の支援は一体どんなものなのか。漠然とではなく具体的なイメージを本人と職員が退所前に持つことにつながっている」と渋谷さんは本取組みが生み出す効果を挙げます。
本ステップルームはこうした入所者の自立に向けた場所であると同時に、地域で生活に困窮した退所者や他施設経験者を受け入れ、再スタートのサポートもしています。地域で頼れる場所がなく、同法人アフターケア相談所のゆずりは等を経由して利用につながるケースもあります。利用期間は定めずに対象者の状況にあわせて、生活支援やケースワーク、アフターケア等を必要に応じて関係機関と協働して取り組んでいます。
とにかくつながる、つながり続ける
こうしたさまざまな取組みを通して継続的に退所者支援を行っている子供の家ですが、以前は退所者の状況把握をできていなかったといいます。「子供の家で働き始めた時は、退所者一覧の支援状況が空欄ばかりであった。退所者への支援状況を可視化すること、何よりつながりが切れているなら戻そうとすることが大切」と早川さんは話します。
今後求められる退所者支援について、渋谷さんは”地域を巻き込んだ取組み”を挙げます。「自立や退所者支援においてまだまだ社会とのつながりがもてていない。在所児童や退所者の居場所を地域に増やしていきたい。例えばカフェのように、私たちだけでなく地域の人とつながれるような場所」と話します。
そして早川さんは、「施設によって地域性は異なる。都心の施設であれば、退所者は家賃等の都合で物理的に離れることも多く、SNS等を活用してつながっていかなければならない。一方、うちのような都営住宅も多く退所者も近くで暮らせる地域であれば、気軽に立ち寄れる居場所を地域につくっていくことができる」と地域を意識した取組みの必要性を挙げます。
児童養護施設子供の家
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