ふつうのカフェ“だからできる支援~一般社団法人SHOEHORN
吉祥寺のカフェを拠点にケアリーバーを含む若者に向けた取組みを続ける一般社団法人SHOEHORNは2018年に始まりました。設立者の武石和成さんは児童養護施設で働いていた際に、路上生活状態や離職に陥る退所者が多発したことを機に現活動の必要性を考え始めたといいます。「当時、入所者支援をしながら継続的な退所者支援をするには、予算やマンパワー不足等もあり施設だけで取り組むことに限界を感じた。外部資源を活用しようと地域に目を向けると、支援に取り組む団体や制度等の社会資源は多く存在しているのに、ほとんどの退所者に結びついていなかった」と武石さんは振り返ります。
続けて、「退所者との関わりから『相談』に高いハードルがあり、支援との接点がないと感じた。一番近くで彼らをみてきた職員等が支援と彼らをつなぐ接点であるべきだと考え、事業を通して『児童養護施設の強力な社会資源』を目指したいと思った」と話します。同じく児童養護施設職員であった仲間と立上げ、現在は児童養護施設や関係団体と協働しながら、必要な活動に取り組み続けています。
使っても使わなくてもいい、二次的な定点
SHOEHORNの事業は「ふつうのカフェ」からスタートしました。自分のタイミングで訪れることができて、説明や登録、相談も不要。お金を払ってコーヒーを飲むだけの人もいれば、立ち寄って相談する人、カフェで職場体験をする人もいるといいます。「ふつうのカフェにこだわったのは『用件が不要』『支援の非定型』『関わりの無期限』を実現できる場だから。相談したければ話を聞くし、必要に応じて外部資源ともつなぐ。ひきこもり等の在所児童の日中活動の場にもなっている。それぞれの接点から、使っても使わなくてもいい『二次的な定点』になることを目指している」と武石さんは思いを話します。
ネット検索や口コミ等からカフェを訪れるケアリーバーには、仕事経験が少ない、主たる所属先を持たない者もいて、一緒に食事や話をしたり、取材事業(※3)で一緒に働くこと等を通じて長期的に対応していきます。「路上生活状態で自分の力で自立していった子に自分が何の役に立ったのか聞くと、『話を聞いてくれたのが良かった。定期的に言語化することで自分の思いや状況が整理できた』と言われた。根っこに保護者の不在や被虐経験がある彼らが、失敗やチャレンジを繰り返していつか所属先ができるまで長期的にみていく必要があると再認識した」と武石さんは強調します。
※3…さまざまなお仕事をされている方に仕事について取材し、Youtubeで発信している
https://www.youtube.com/channel/UCjfmw6PfcFaHbQtaBZMRRhQ
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ケアリーバーの安心を社会で考えていく
カフェ事業を中心に、取材事業や夕ご飯会(世田谷区若者スタートフェア事業)に取り組むSHOEHORNですが、3名でそれらの事業を運営しているため広報活動等まだまだ不十分なことが多くあります。何より課題は資金不足で、安定した拠点の設置費用や、組織化のためのマンパワーが不足している状況です。
そうした活動を続ける中、退所者支援に関する支援現場からの情報発信が必要であると武石さんは感じています。「外部支援団体からこぼれている児童や、支援のミスマッチが散見される。SNS等で当事者や外部支援団体の発信が多く見られるが、児童養護施設が退所者支援について現場からもっと発信することが求められていると思う」と話し、今後は職員経験を生かして支援現場の事例を社会にシェアしていきたいといいます。
続けて、「これからはそれぞれの立場から発信して、支援について議論することで、新しい選択肢をつくっていかなければならないと考えている。そして、ケアリーバーが心の拠り所となるような、安心できる場を社会に増やしていくことが求められているのではないか」と武石さんは話します。
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都内の社会的養護対象者は毎年4,000人前後で推移し、虐待やネグレクト、離別等さまざまな理由で子どもたちは社会的養護のケアを受けることになります。ケアから離れた後も社会で多様な課題に直面しながら暮らしていくには、出身施設をはじめ何かあったら気軽に立ち寄れるような場所が地域にあるということ必要です。そして、彼らの課題や現状を知り、必要な取組みについて多様な主体が顔を合わせて考えていくことが大切といえます。
児童養護施設子供の家
https://www.kiyose-kodomonoie.com/
一般社団法人SHOEHORN
https://sites.google.com/shoehorn.jp/top/home?authuser=0