あらまし
- 2022年度に東社協が実施した福祉人材の確保・育成・定着に関する調査では、多くの福祉職場で、主任やリーダー層の人材育成に問題意識を持っている現状が明らかになりました。この結果から、東社協では、主任やリーダー層の育成に取り組んでいる施設・事業所へのヒアリングを行い、冊子としてまとめ、取組み事例を広く発信することを予定しています。本連載では、冊子の内容の一部を先行してご紹介します。
事例1 子どもたちの安心・安全な生活の実現のために、人材育成に取り組み続ける
~児童養護施設 聖ヨゼフホーム
◆チームを支えるリーダーに求められること
聖ヨゼフホームは西東京市にある児童養護施設で、子どもたちは本園とグループホームのユニットに分かれて生活しています。医療的ケア児も受け入れているほか、ショートステイ事業なども行っています。ユニットごとにリーダーが1名ずつ配置され、「幼児」や「学齢期」、「グループホーム」などと、特性ごとにユニットを5つのブロックにまとめ、ブロックの管理や運営等を担う「運営員」という指導的立場の職員を置いています。
聖ヨゼフホームでは、子どもたちの安心・安全な生活を第一に、チーム支援を大切にしており、組織として人材育成を行う体制を整えてきました。
人事異動で職員が変わっても、子どもたちへの支援は積み重ねていく必要があり、ユニットごとにリーダーを中心にチームをつくり上げることが必要になります。チームづくりにはリーダーシップだけでなく、チームの効果を最大化するために主体的に周りへ働きかけを行う「フォロワーシップ」が欠かせません。そのため、フォロワーとして何をすべきか、新任の頃から伝えるようにし、チームとして動く意識が浸透するよう努めています。
現場の職員をまとめるリーダーや運営員には、組織を理解していることはもちろん、ケアワーク、ソーシャルワーク、マネジメントの3つの役割を担ういわゆるジェネラリストであることが求められます。運営員の山田正明さんは、日ごろ仕事をする上で意識していることについて、「自分一人で行う業務ももちろんあるが、できるだけメンバーやフォロワーと一緒に行う、もしくは見せる、説明する、ということを意識的に行っている。〝自分がやる〟というよりも、〝周りの人ができるようになる〟ための環境や状況をつくるよう心がけている」と言います。
◆分かりやすく「見える化」し、共通の理解を浸透させていく
「組織とは何か」を職員一人ひとりが理解することも聖ヨゼフホームは大切にしています。法人の理念を実現するために、施設は何が求められているのか。そのために、それぞれの部門やブロック、それからユニットや職員個人には何が求められているのかを構造的に把握できていることで、一人ひとりの毎日の仕事が児童福祉の向上にどうつながっているかが意識できるようになります。新任の頃に組織について丁寧に伝え、意識して仕事ができるよう、理念や事業計画、組織図を分かりやすく「見える化」しています。
新任職員を中心に活用するOJT振り返りシートには、「子どもたちとの関わり方」や「環境整備」などさまざまな項目を設け、それらの評点をレーダーチャートで表せるようにしています。職員本人や先輩、施設長など誰が見ても分かるようにすることで、自身の強みや苦手な部分を多角的に評価することができます。これも「見える化」の一つです。
施設長の鹿毛弘通さんは「各ユニットの目標を達成するために、個人個人が無理な努力をするのではなく、半歩ずつ頑張って、チームとして最大限の効果を出してほしい。そしてリーダー層の職員には、東京の児童福祉を背負っているという意識を持ってもらい、それを楽しんでくれたら嬉しい」と話します。
聖ヨゼフホームはこれまで、人事考課制度における面談や評価、OJTマニュアルの作成などに取り組んできました。2023年度はそれらを一度止め、人材育成に関するプロジェクトチームを立ち上げ、社会の環境や職員構成などの変化を考慮した人材育成の枠組みを改めて整備しているところです。チーム支援をベースとする組織として、今後も子どもたちの笑顔を一番に考え、職員育成をすすめていきます。
(左から)運営員 山田正明さん
施設長 鹿毛弘通さん
事例2 対話を重視し、職員の成長につなげる
~うらら保育園
社会福祉法人清遊の家は1987年に設立し、保育園や学童クラブ、高齢福祉サービスを展開してきました。葛飾区にあるうらら保育園は、特別養護老人ホームすずうらホームと西新小岩在宅サービスセンターが併設しており、自然を感じられる園舎が特徴的な施設です。
◆評価と面談を丁寧に行う人事考課制度へ
法人として人事考課制度は設けていましたが、経験年数に応じて一定の評価を上げた場合に昇給するなど、大まかな内容のものでした。そこで、年功序列をなくし、客観的な評価指標を取り入れるため、2017年頃から新たな人事考課制度の作成に取り掛かりました。具体的には、経験年数で区分していたところを、職種別に階層を4つに分け、各階層に担ってほしい役割を設定しました。リーダー層にあたる3階層以上の職員には園全体のことを考える役割を明示して、それに沿って評価軸を決定していくシステムです。
上半期と下半期に直属の上司が面談を行い、評価している点やより力を入れてほしい点を伝えた上で、リーダー層とは園全体の強みや改善すべきことなどを意見交換しながら、相互に確認しています。考課表は自己評価を記入できるようになっています。常務理事の塚田剛士さんは「職員が自分自身のことを客観視できていることで、考課者は課題を明確に伝えられるようになり、双方にずれのないフィードバックができるようになったのではないか」と話します。
また、当該年度の振り返りにもなる「自己研修計画」もあります。次年度に向けて、受けたい研修や学びたいことを記入するもので、自分の決めたことに対してどれだけ取り組んできたかを評価できるようになっています。
◆その場にいる誰もが対等だと感じられる場を大切にする
園長の齊藤真弓さんは、このような取組みの中で工夫してきたことは「〝とにかく聞く〟こと」だといいます。「本人の話はもちろん、言語化できていないことをどれだけ園長や主任が受け取れるか。できるだけ緊張感を取り除き、安心して自分の気持ちや意見を表現できる空間となるよう、日々気にかけている」と話します。
対話を大切にしているうらら保育園では、チーム活動を円滑にすすめ、最大限の成果を出すための技法「ファシリテーション」のスキルやマインドを保育現場で用いる「保育ファシリテーション」を取り入れています。リーダー層になる人はファシリテーションに関する研修を必ず受講し、会議や日々の対話で実践しています。齊藤さんは「そうすることで、誰か声の大きい一人の意見に左右されるのではなく、その場が公平公正で、安心して意見を表明することができるようになる。また、新任職員は、リーダー層が保育ファシリテーションを用いて対話の場づくりに取り組んでいる様子を見ているので、『自分も数年後に経験するかもしれない』といった当事者意識が生まれてきている」と言います。続けて「職員が保育ファシリテーションのマインドで子どもたちと常に関わることができるようになれば、いずれ公平公正で平和な世界につながるのではないかと信じている」と、思いを話します。主任の阿部友美さんは「何か事象が起きたときは、その背景や気持ちが大きく関わっていると思う。起きたことだけに着目するのではなく、背景や気持ちを丁寧に聞き取ることを心がけている。今後、対話の時間を日々の業務の中にもう少し増やしていきたい」と言います。
今後も、人事考課制度をより時代に合わせたものに更新し、職員一人ひとりの特性に応じた指導ができるようにしていくほか、創造力とコーディネート力を持った保育士の育成に取り組んでいきます。
(左から)法人理事長兼園長 齊藤真弓さん
主任 阿部友美さん
常務理事 塚田剛士さん
https://st-joseph.christ-roi.info/
うらら保育園
https://urara.ed.jp/