ユースウエルネスKuKuNa
【連載 若者の孤独・孤立のいま 第3回】子供・若者にとって保健室のような存在でありたい
掲載日:2025年1月30日
2025年1月号 連載

医療法人社団向日葵会 まつしま病院
ユースウエルネスKuKuNa 室長
助産師/思春期保健相談士
幸﨑(こうさき) 若菜さん

 

あらまし

  • 心身の成長や人間関係の広がりに伴い、家族や友人、性などについての悩みも複雑化していく思春期。中には、悩みを抱えていても誰にも相談できず、状況が悪化してしまう若者もいます。そんな子供・若者が抱える性の悩みを受け止める場として開室した「ユースウエルネスKuKuNa(以下、KuKuNa)」に取材し、若者に関わる中で見えてきた課題や、社会のあり方についてお伺いしました。

 

“保健室”のように気軽に相談できる場所

江戸川区で、産婦人科、小児科、心療内科を専門に、女性と子どもの健康を30年にわたり見守り続けてきた、まつしま病院。性被害やDVを含めた暴力について検討する委員会を立ち上げ、長く女性と子どもの性の問題についても向き合い続けてきました。KuKuNa室長の幸﨑若菜さんは助産師として働く中で、10代での予期せぬ妊娠や中絶、性感染症や性暴力など、トラブルを抱えた若者にたくさん出会ってきたといいます。「その背景は、不十分な性教育や、孤独・孤立、発達の問題、家庭内不和などさまざまですが、悩みを抱えていても相談できる場所がない、相談の仕方が分からないといった若者が多い状況に危機感を感じていました。問題が大きくなる前に、思春期世代が悩みを気軽に相談でき、正しい性の知識も学べる場所が一刻も早く必要でした。そういう場として2024年4月にKuKuNaを開室しました」と話します。


また、小学校低学年ごろになると予防接種や健診など病院を受診する機会も少なくなります。しかし、それ以降に性や心身の悩みがあっても打ち明ける場所がなく、親にも話せないまま最終的に問題を抱えきれなくなり17~18歳になって中絶や若年妊娠など切羽詰まった状態で病院を受診するケースが多いといいます。幸﨑さんは「『もっと早く病院に来てくれれば』と思ったことが何回もあります。思春期へのフォローがすっぽり抜けた状態なので、そこを手厚くフォローすべきだと思いました」とKuKuNa開室を振り返ります。


また、若者にとっては性や身体の悩みを病院に相談すること自体ハードルが高いのが実情です。そのためKuKuNaは、まつしま病院の隣の敷地を活用し、医療機関と切り分け、新しい施設として開室しました。インテリアもモダンで明るいイメージに統一し、個別に相談室を2つ設け、それぞれのテイストを変えて利用しやすくしたのも特徴のひとつです。

 

性の悩みを受け止めるKuKuNaの取り組み

KuKuNaでは、主に3つの活動を行っています。「街の保健室(オープンユース)」は、第2・4土曜日と、第1・3木曜日に開室している予約不要のオープンスペースです。助産師や思春期保健相談士※などの専門職が常駐し、誰でも無料で相談できます。「相談がなくても、お茶を飲みながらゆっくりしたり本を読んだりと、自分のペースで自由に利用できます。若者や保護者、支援者が読める書籍も多くそろっているので、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーにも来ていただいています」と、幸﨑さんは話します。小学校高学年から中学生の利用が多く、1日に14~15人が来室することもあるそうです。

 

「個別思春期相談」は、悩みを抱えた若者が直接予約し、500円のワンコインで30分間、個別に相談ができます。オープンスペースだと話しにくい、もっと専門的な相談をしたいという子ども・若者向けにつくられました。相談内容に応じて、まつしま病院の思春期外来や心療内科につなぎ、行政や各種機関と連携することもあります。


また、保育園や学校向けのほか、保護者や教職員、スクールカウンセラー等を対象にした勉強会や講座、講演会なども開催し、保護者や支援者との連携やスキルアップをめざしています。「性の問題の対応に困っている保護者や支援者に、性教育への姿勢やアセスメントの大切さを知ってほしい。そのために必要な情報にアクセスできる場所にしたいという想いもありました」と、保護者や支援者にもアプローチする意義を幸﨑さんは話します。

 

※思春期の子どもたちに専門的な知識経験を積みながらサポートを行う(一社)日本家族計画協会の認定資格

 

若者を理解し支える社会のしくみが必要

性の問題をはじめ、思春期の若者の悩みや問題は、当事者だけでは解決できないことも多く、トラブルに陥ってしまった子を責めるのではなく、社会全体の問題として周囲にいる大人も向き合っていくべきだといいます。そのためには、医療、福祉、教育の垣根を超えた切れ目のないサポートのしくみや、想いを受け止められる大人がさらに増えることが大切です。


幸﨑さんは「若者の背景や個別性を理解し、全体像がみえる大人が各領域で増えていくことが大切だと考えています。そのためにも関係機関とのネットワークをさらに広げていきたいです」と話します。続けて「声をあげたのに制度の狭間からこぼれ落ちてしまったり、受け入れてもらえなかったりして孤立してしまった若者や、性の問題やトラブルを抱えていても「自己責任」だと考える若者が想像以上に多いです。安全で健康に過ごす権利は誰にでもあるのに、それが脅かされ、自己責任と感じてしまうこの社会にも問題があると思っています。この取組みから気づいたことや、若者をとりまく社会のしくみ・ルールの課題点についても提起していきたいです」と幸﨑さんは課題や展望を話します。そのために、学校や教育委員会など各種機関にも積極的に周知活動を行っているというKuKuNa。これからも、子どもや若者が自分らしく健全に生きられる社会をめざして、子ども・若者に寄り添い続けます。

 

               清潔感のある室内。奥には2つの個室と

               くつろげるマット敷のスペースもある

取材先
名称
ユースウエルネスKuKuNa
概要
ユースウエルネスKuKuNa
https://www.matsushima-wh.or.jp/youth_wellness/
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