特定非営利活動法人サンカクシャ
若者が安心して生きていく基盤をつくれる社会を
掲載日:2025年3月5日
2025年2月号 連載

特定非営利活動法人サンカクシャ 事務局次長 塚本 いづみさん(右)

居場所事業マネージャー 早川 ともひろさん(左)

 

 

あらまし

  • 身近な大人を頼れない若者たちがいます。彼らの多くは貧困や虐待などの環境にいたことで安心できる居場所を持てず孤立しています。一緒に楽しむことを大切に、若者が生活の基盤をつくり、一歩ずつふみ出すことを支援する、特定非営利活動法人サンカクシャにお話を伺いました。

 

孤立し困窮した若者たちとつながる所

サンカクシャでは、さまざまな理由で社会から孤立している、主に15~25歳の若者を対象に、居場所・仕事・住まいの3つの「生きていくための基盤」の支援に取り組んでいます。2019年の設立以降、支援する若者のニーズを捉えながら活動を拡大し、相談や支援の件数も増加しています。

 

居場所事業マネージャーの早川智大さんは、関わる若者のほとんどが虐待と貧困の経験者だと言います。公的支援につながらなかった人も、施設へ入所したものの退所後の生活が立ち行かない人もいます。「幼少期に家庭が子どもに与える力は大きい。でも、一般的な日常生活を送れず、朝・昼・晩の三度の食事をする生活や、決まった日にごみを捨てる生活を経験していない子もいます。また、多くは身近な大人から関心を向けられず、否定的な人間関係の中で過ごしてきています。そのため他者への信頼感や生きる意欲自体が低く、人間関係でつまずくと修復できずに諦めてしまうなど、自ら立ち直る力も弱いと感じます」と、若者の様子を語ります。

 

コロナ禍以降の経済情勢の悪化も受け、現在、サンカクシャへ寄せられる相談の約4割が住まいに関する相談です。困窮し孤立した若者が「ネットカフェで寝泊まりしている」「所持金が数十円しかない」と自ら連絡してつながることが増えています。性別の内訳は男女ほぼ同数ですが、女性は全般的な相談が入り口になり、男性は住まいや仕事に困っているという明確なニーズが入り口になることが多くあります。

 

安心できる居場所や住まいで回復し、意欲を取り戻す

サンカクシャにつながった直後の若者は、疲弊し生活することへの意欲が薄い状態にあります。彼らが安心して過ごせる“居場所”として、週3回開放する「サンカクキチ」があります。企業から提供された家具が配置され、ボードゲームや本、テレビなどもあり思い思いに過ごせ、夕食も提供される相談・交流の拠点です。室内の一角にあるゲーミングPCを複数備えたeスポーツができるコーナーや、ここで月2回実施する深夜の居場所「ヨルキチ」などの特徴的な活動も、若者がサンカクシャを知り、つながるきっかけになっています。 また、一緒に外出し楽しい体験をすることも“居場所”の一つと捉え、暮らし方や過ごし方のバリエーションを増やすことにも力を入れています。

 

“住まい”の支援としては、シェアハウス「サンカクハウス」4棟と、短期滞在型の「サンカクシェルター」を用意し、行政機関や病院に同行するなど、生活を立て直すために寄り添った相談支援をしています。住まいの支援を受けながら、日中は「サンカクキチ」をリビングのように過ごす若者も多く、ともに時間を過ごす経験からもスタッフが伴走する関係を構築します。

 

“仕事”の支援では、体験プログラム「サンカククエスト」などを提供しています。協力企業や個人から依頼された仕事を大人の見守りの中で体験します。つまずくことも多くありますが、徐々に経験を積んで自信をつけていきます。

 

サンカクシャのスタッフは約30人。若者一人ひとりの支援を皆で考えサポートしています。事務局次長の塚本いづみさんは「彼らの状態に合わせた支援のステップを重視しています。心が落ち着く安心な居場所や住まいを得て、楽しい経験や時間を共有する中で徐々に生きる意欲が回復していきます。そこから働くことへと気持ちが向き、働く体験が自信につながり自立に至る。そこまで約3年必要です」と語ります。

 

また、サンカクシャを知り、共感してくれた個人・法人からの体験の場の提供やプロボノ、寄附なども、サンカクシャの活動を支えています。

 

 

サンカクキチの一角2

「サンカクキチ」の一角

 

身近な大人に頼れない若者を包括的に支える社会を

若者を支える社会のしくみはまだまだ不十分で、若者に過度な自己責任が問われているのが現状です。特に18歳以上への公的支援はほとんどありません。住まいの支援制度は、DVやシングルマザー等の要件に該当しないと、ほぼありません。また“子どもの貧困”の延長線上にいる、困窮した大学生は生活保護が受給できません。

 

早川さんは「身近に頼れる大人がいない若者が生活の基盤をつくるには包括的な支援が必要です。住まい等の最低限の保障のしくみは自治体ベースで整えられるべきです。また、現在は“就労”のみが支援の出口として捉えられていますが、彼らが負担感なく社会に参画できる、より多様な選択肢があっていいと感じます」と語ります。こうした問題意識から、2025年4月にはカフェやショップスペースと作業スペースを備えた「サンカクオフィス」を新設し、若者が社会やまちの人たちと多様なつながりをつくる場とする予定です。

 

また、サンカクシャでは、支援を必要とする若者とつながるには「サンカクシャ=若者支援団体」と広く認知されることが大切だと考え、TikTokなどSNSでの情報発信にも注力しています。SNS上に「サンカク相談室」という相談窓口をつくり、生配信で相談を受けたり、毎日、TikTokに活動の様子がわかるショート動画を投稿するなどしています。今まさに困っている若者たちに情報を届け、直接、またはオンライン上でつながるきっかけをつくっています。

 

早川さんは、活動を始めた数年前に比べて、最近は若者支援への理解が広がりつつあるとも感じています。「今後も地域や企業等とよりつながりを広げ、若者が安心して生きられる社会に向け活動していきたいと思います」と語ります。

取材先
名称
特定非営利活動法人サンカクシャ
概要
特定非営利活動法人サンカクシャ
https://www.sankakusha.or.jp/
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