板橋区4法人、大田区4法人、北区3法人
社会福祉法人による地域連携で地域の力を高める
掲載日:2018年1月24日
2016年11月 社会福祉NOW

 

あらまし

  • 東京都内では区市町村を単位とした社会福祉法人のネットワーク化がすすんでいます。本号では、複数の社会福祉法人による3つの地域連携の事例から、地域のニーズに応え、地域の課題解決力を高める地域連携の可能性を考えます。

 

顔の見える関係で地域の複合的な課題にも対応―4法人で「徳丸わくわくまつり」

板橋区徳丸地域では、毎年5月「徳丸わくわくまつり」を4つの社会福祉法人が共催しています。

 

地域の事を知らない施設職員が多いという気づきなどから、社会福祉法人北野会(特養:マイライフ徳丸)、社会福祉法人大泉旭出学園(障害者通所施設:徳丸福祉園)、板橋区社協の三者が平成23年に初めて「わくわくまつり」を共催しました。「マイライフ徳丸」施設長の高麗正道さんは「地域の人にとって施設は、『見えない世界』だっただろう。お祭りをきっかけに、『私たちはこういう仕事をしています』というのを見せていきたかった」と話します。さらに、平成26年から社会福祉法人藤花学園(北野保育園)にも協力を呼びかけました。さらに、他の保育所、小学校、高校、町会、民生児童委員等にも声をかけると、当初関係者ばかり約100人だった参加者は約1千人に増え、地域住民で賑わうものになりました。

 

そして、わくわくまつりを共催することで、今まで関わりがなかった者同士が互いを知るよいきっかけになっています。具体的には、(1)専門分野や法人の枠を超えて職員同士が気軽に関われるようになった、(2)園児が毎日、マイライフ徳丸の植物の水やりに訪れたり、徳丸福祉園の利用者がマイライフ徳丸へ車いす清掃に来てくれたり、利用者を通じた日常的なつながりができた、(3)お祭りで職員の働く姿を見て、福祉の仕事に興味を持った地域の方が見学に来るようになったなどです。

 

また、「障害のある方のお宅がゴミ屋敷になっているが、実は認知症の家族がいた」という複合的な課題を抱えたケースでは、顔の見える関係の中で相談・連携し、多職種が協力して適切な支援につなげることができました。それは、困りごとをたらい回しにせず、地域の中で解決していける可能性が見えた出来事でした。

 

今年も盛況に行われた徳丸わくわくまつり

 

現場の実践から「生きる力」を高める地域づくりの答えを探す―4法人を核に「おおたスマイルプロジェクト」

大田区で母子生活支援施設などを運営する社会福祉法人大洋社の常務理事の齋藤弘美さんは「法人が事業を始めて100年近く経つが、時代はよくなったのだろうか」と考えました。それは、緊急のニーズに対応し続けるだけでなく、そうしたニーズを生み出さない「地域づくり」が必要ではないかという思いからです。

 

そこで、まずは3年かけて、何をしていくべきかを職員たちで検討しました。検討にあたっては「架空の人ではなく、事例から具体的な人をイメージして考える」「わかりやすく、取組みやすいものをつくる」の2つを大切にしました。こうしてできあがったのが、地域のひとり親家庭の子どもを対象に「生きる力を身につける」ことを目標とした4つのプログラムの提案です(図)。

 

 

そして、その「生きる力」を身につけることは一法人で取組むのではなく、地域に理解と協力者を得る中でこそ、「地域づくり」につながると考えました。齋藤さんは最初、大洋社の役員をお願いしている町会の方や民生委員児童委員を通じて地域に働きかけることを考えました。しかし、『それでは”個“の協力を求めることになる』と思い直し、大田区社協に相談することにしました。

 

相談を受けた大田区社協総務課の根本恵津子さんは、「明確な目的があり、実現するために何が必要かはっきりしていた」とふり返ります。母子生活支援施設を「活動場所」にすることは保安上の課題もありましたが、それは地域の2つの法人に相談してみることで何とか解決できそうです。

 

齋藤さんは「社協は、地域の人や組織をよく知っている」と驚きました。そこで、事業の「広報」は社協を通じて地域の人たちに力を借りることにしました。根本さんは「趣意書」をつくることを提案しました。それは、課題と解決策の提案を可視化するためです。こうしてできあがった「趣意書」をもとに、社会福祉法人大田幸陽会、社会福祉法人池上長寿園に、まずは負担の少ない活動場所の提供から協力をお願いしました。さらに、自治会、民生委員児童委員協議会、区特別出張所、区教育委員会へのあいさつ回りをしながら、地域のひとり親家庭への広報をお願いしました。こうして地域の協力を得ていきましたが、齋藤さんは「協力いただいた結果を目に見える形で報告することが大切」と話します。それは、地域にある課題として捉えてもらうために、欠かせないことです。

 

そして、平成27年10月、大洋社、大田区社協、大田幸陽会、池上長寿園の4つの法人による「おおたスマイルプロジェクト」が始まりました。特別養護老人ホームを運営する池上長寿園では、1回目の食事づくりの後、参加した子どもからも「今度、おばあちゃんと食べたい」という声が上がり、新しい交流も生まれました。また、障害福祉事業所を運営している大田幸陽会のカフェを見学に行き、「はたらく」姿のイメージを目にしました。さらに民生委員児童委員が協力してくれて、子どもたちに着付け体験や、自治会長が畑で野菜栽培を指導してくれました。地域社会に所属するという経験から将来に夢や目的をもって生きていく力をつけていく活動が、地域の理解と協力により、広がっています。

 

地域につながりを紡ぎ直す住民中心に運営する居場所―3法人で「桐ケ丘サロンあかしや」

高齢化がすすむ北区桐ケ丘団地の商店街の一角に、まちの高齢者でにぎわう「桐ケ丘サロンあかしや」があります。団地の商店街は、ほとんどの店でシャッターが下り、高齢の方が買い物に行けない、食事をつくることがしんどくなっても外食する場がないという状況でした。そんな地域の課題に気がついたのが、地域で障害者が働く場と生活する場を作ってきた社会福祉法人ドリームヴイでした。おりしも、桐ケ丘地区を担当する地域包括支援センター等を運営する社会福祉法人東京聖労院でも、高齢者のみ世帯が多く、閉じこもりがちな人が多い桐ケ丘団地で、何かできることがないかを模索しているところでした。

 

両法人が出会い、地域のために一緒にできることを探そうと、地域の人たちに話を聞いたところ、「いつでもふらっと立ち寄れる居場所がほしい」という声が上がりました。そこで、北区社協も検討に加わり、3法人で常設型の居場所「桐ケ丘サロンあかしや」を28年6月にオープンしました。

 

店主の高齢化で閉まっていた蕎麦屋を東京聖労院が借り、ドリームヴイが障害者就労継続支援B型施設に位置づけ、2軒隣にあるカフェレストラン「ヴイ長屋」と一体的に運営しています。

 

設立の時から、三者が大切にしていることは、「住民主体で運営する」ことです。あかしやは、町会・自治会長や地区民協会長、商店街の会長、ボランティア団体、そして、児童館等からなる「運営委員会」を組織しています。2か月に1回の会議では、地域のさまざまなニーズが上がってきます。普段はあまりサロンに来ない男性も出てきやすいようにと企画した「ビアガーデン」等、「こんなことがやりたい」「こんなことが心配」という住民の声から、さまざまなイベントを行う拠点にもなっています。

 

「現在は住居活動が衰退してしまっている。しかし、あかしやができて、いろんな形で住民が集うことで、地域のニーズが可視化され、地域のつながりに厚みができてきたといわれるような場所をめざしたい」と、東京聖労院桐ケ丘やまぶき荘施設長の藤井和彦さんは話します。ドリームヴイ理事長の小島靖子さんは、「団地の再開発がすすむなか、地域に必要なものを、地域住民自身がつくっていく実績が、新しいまちづくりにつながる」と将来を見通して語ります。

 

あかしやでは、今、運営委員会から出てきた「団地の内外に、夜遅くまで食事をとれていない子どもたちがいる」という声から、子どもを含めただれもが夕食を一緒に食べられる「地域の食卓」をつくる動きが出てきています。

 

地域のつながりを紡ぐ「桐ケ丘サロンあかしや」

 

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都内で31地域まですすんできた社会福祉法人の区市町村単位での地域連携。区市町村社協が関わりながら、地域の実情に応じた取組みが始まっています。そこでは、できることを話し合ったり、取組みを可視化することで住民との協働をつくる工夫も検討され始めています。地域のニーズにこたえ、地域の課題解決力を高める。地域連携が新たな地域をつくっていくことが期待されます。

取材先
名称
板橋区4法人、大田区4法人、北区3法人
概要
【板橋区4法人】
(社福)北野会 特別養護老人ホーム「マイライフ徳丸」
http://kitanokai.com

(社福)大泉旭出学園「徳丸福祉園」
http://tokumarufukushien.com

(社福)藤花学園「北野保育園」
http://kitano-hoikuen.net

(社福)板橋区社協
http://www.itabashishakyo.jp

【大田区4法人】
(社福)大洋社
http://www.taiyosha.or.jp

(社福)大田幸陽会
http://www.ota-koyokai.or.jp

(社福)池上長寿園
http://www.ikegami.or.jp

(社福)大田区社協
https://www.ota-shakyo.jp

【北区3法人】
(社福)ドリームヴイ
http://www.dream-v.or.jp

(社福)東京聖労院
http://www.seirouin.or.jp

(社福)北区社協
http://kitashakyo.or.jp
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