(社福)とおの松寿会
日頃からの組織的連携を活かした広域支援を実施
掲載日:2017年12月15日
ブックレット番号:2 事例番号:15
岩手県遠野市/平成25年3月現在

 

特別養護老人ホーム「高寿園」(陸前高田市)利用者の洗濯支援

また、長寿の郷では、3月30 日から陸前高田市にある特別養護老人ホーム「高寿園」の利用者の衣類を洗濯する支援を始めました。

高寿園は、震災による直接の被害がなかったのですが、そのために一般の方々が多く避難してきました。その数は、一時700人~900人にものぼりました。廊下などに一般の避難者が寝泊りをしていたり、断水していたりしたため、高寿園では業務が日常どおりできなくなってしまいました。また、施設の利用者については、避難者ではないという理由から、食料や衣類の提供がありませんでした。手持ちの衣類が汚れても洗濯ができない状況が続いたのです。それを聞きつけた長寿の郷が遠野市や他の施設と協力し、高寿園の利用者の洗濯を請け負うことになりました。「最初は被害を受けた人たちが困っているだろう。混乱している所へ行っていいかどうか悩んだが、現地の様子を知るには行って話を聞くしかない、とその想いだけだった」と遠藤さん。現地に到着すると、一般の避難者よりも施設利用者が大変だということになり、洗濯支援につながりました。

 

入所相談に関わる支援が大きな課題だった

非常に困難だったのが相談支援でした。避難所で体調を崩した方などが内陸の病院に入院しており、「この方は○○病院から転院してきたけれど、ここではもう治療することはない。今度は老人ホームさんでお願いします」と長寿の郷に電話がかかってくるケースが目立つようになりました。しかし、家族は、本人が病院にいることや遠野の特養に来ることについて一切知らない状況でした。そこで、まず、家族に連絡し、確認を取ってから対応するように心がけました。しかも、それが施設利用者としての受入れ(入所対応)なのか、一時的な避難なのかも分からないので、そこも確認する必要がありました。また、本人に関する情報が震災により無くなってしまっており、名前と生年月日、持病や治療状況を聞いた上で、受入れ可能かどうかを判断しなくてはいけませんでした。

結局、寝たきりの方から一時的に体調を崩して入院されていた方まで、状態はさまざまでしたが、30 人以上から相談が来て、そのうちの半分しか受け入れられませんでした。

震災時は、特例措置「東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震による被災者に係る利用料等の取扱いについて」により、被災者は無料で施設を利用することができましたが、岩手県より個人からの相談は一般扱い、公的機関からの相談は上記特例扱いとするよう通知が届きました。そのため、被災者でも個人で相談すると、有料になってしまうという状況でした。そこで、個人からの相談は地域包括支援センターに相談(この地域一体は全て市・町直轄の地域包括支援センター)し、全て確認を取った上で対応を行いました。

また、県の中でも管轄が幾つかの区域に分かれており、その管轄ごとに相談の窓口が違うのもネックでした。「遠野の老人ホームで受け入れてくれる施設があるらしい」という情報を聞いて、利用者や家族が入所相談にきても圏域が違うために、また担当の保険者に確認をとるという必要がありました。さらに、行政が機能していないところでは、どこに連絡を取ったらよいか確認するところから行わなければなりませんでした。遠藤さんは「入所に関する電話相談をすると、中には『そんなのに構っていられない』と言われることもあった。それでも、私たちは命を救うために動いているんだ、と思いながら支援を続けていた」と話します。

 

養護老人ホーム間の連携で組織的な広域避難を実現

長寿の郷と同じ法人が運営する養護老人ホーム「長寿の森 吉祥園」(以下、吉祥園)では釜石市にある五葉寮の利用者45 名を受け入れ、吉祥園が中継地点となって内陸の8施設に5名ずつ、計40 名を避難させました。養護老人ホーム間のネットワークにより、組織的に対応することができました。岩手県社会福祉協議会に事務局がある高齢者協議会養護老人ホーム部会が中心となり、連絡調整を行い、受入れ計画も立てて実施しました。岩手県や釜石市介護福祉課など様々な関係機関と連絡調整しながら動きました。

受入れにあたっては、岩手県社協からの依頼により、当時の吉祥園施設長が五葉寮の避難所に出向き、現地の状況を調査しました。そこで得た情報を県社協及び養護老人ホーム部会や遠野市などに報告し、後方支援を得ながら行いました。当時、五葉寮の利用者は一般の避難所に避難している状況でした。

吉祥園での受入れは、デイサービスの集会室に利用者を集めてコンパクトな形で避難生活をしました。ライフラインの状況も良くなく、プロパンガスを取り寄せて料理し、関連の建設会社から発電機を借りて照明に使用しました。ストーブなどを地域の方や職員が持ち寄り、それで暖をとりました。3日間ぐらいそれが続きました。

職員体制については、ガソリン不足だったので、遠方の職員は自宅待機とし、近場の職員で勤務調整をしながら対応しました。ただし、夜間は職員を手厚くして5人体制としました。職員の疲れが出ないよう、交替制でうまく調整しながら対応しました。

吉祥園では、一時的に受け入れた45 人のうち、移動が困難な5人を残して40人が内陸の施設に避難しました。受入れにあたっては、岩手県社協養護老人ホーム部会が中心になり、県内の各養護老人ホームでの受入れ可能人数を定期的に調査しました。当初は避難者の受入れに手を挙げたのは3施設でしたが、呼びかけるうちに受入れ施設が増えていき、最終的に9施設が避難者を受け入れることになりました。

吉祥園相談員の松田学さんは「日ごろから養護老人ホーム部会が組織としてつながっていることが非常に大きかった。さらに、遠野は沿岸部と内陸部の中間地点にあり、ワンクッション置いて避難支援を行ったことで適切な連絡調整ができ、スムーズな対応ができた」と話します。

 

 

 

取材先
名称
(社福)とおの松寿会
概要
(社福)とおの松寿会
https://t-chouju.jp/

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