第1回「こども世代の集い」の様子
若年性認知症家族会「あしたば会」
社会福祉法人東京栄和会「なぎさ和楽苑」では、平成21年度に若年性認知症支援補助事業を東京都より選定されたことをきっかけに、現在に至るまで継続的な支援に取組んでいます。江戸川区のなぎさ和楽苑内で実施している若年性認知症専門デイサービス「フリーサロンあしたば」では、65歳未満で若年性認知症または高次脳機能障害と診断された方を対象に、週3日の活動を行っています。地域の散策、通所時の昼食づくり、なぎさ和楽苑内の事務や清掃等、若年層にあわせた活動的なプログラムを実施しています。
それと並行して運営の支援をしているのが、若年性認知症家族会「あしたば会」です。フリーサロンあしたば利用者の家族から、「若年性認知症について正しい情報を知りたい」、「介護の悩みを話し合える場がほしい」という要望を受けて、平成24年に立ち上げ、月1回定例会を開催しています。
初の試み「こども世代のつどい」開催
そのようななか、あしたば会では、若年性認知症の家族の中でも10~30代を含む子どもの世代に焦点を当て、わかちあい、情報交換の場として、平成28年10月1日に「第1回 こども世代の集い」を開催しました。
定例会を開く中で、配偶者に混じって参加していた子ども世代の方から、「同じ子ども世代で話し合う場がほしい」という声が上がったからです。当日は9組17名が参加し、それぞれの気持ちや不安を共有しました。参加者は多くが30代で、女性からは「結婚することが決まって相手を家族に紹介する時に、父は私のことがわからないかもしれない」という不安な気持ちや、「認知症の進行によって、介護のために常勤からパートになることも考えなくてはならない」、「海外で仕事をして、結婚もしていたが、母が若年性認知症と診断されたため、外国人の夫とともに帰国し介護に専念している」等の仕事との両立に悩む声が聞かれました。また、男性からも「友人や同僚には、『言ってもわかってもらえない』と思って相談できず、つらさを誰かと共有できない」、「仕事も育児も介護もすべて担わなければならず、自分が倒れるわけにはいかない」等の発言がありました。
若年性認知症支援事業の担当職員 池田めぐみさんは、「子ども世代の方のなかには、進学や就職を断念したり、仕事と育児、介護のトリプルケアで、心身ともに疲弊してしまう方もいる。子ども自身の人生が根本から覆ってしまうが、社会的な理解が得られにくいため、周囲に相談もできない。今回のような集まりが、介護をしている子ども同士が直接つながる場になればと考えている」と話します。
若年性認知症専門デイサービス「フリーサロンあしたば」
利用者が缶バッチの作成や、ビーズのアクセサリーづくりを行っている。
小学生が母親を介護する
なぎさ和楽苑が若年性認知症の子ども世代への支援に乗り出したきっかけは、小学生の時に母親が若年性認知症を発症し、不登校気味だという子どものケースに関わったことでした。
池田さんは、「多くのケースは介護者=配偶者であったため、支援者の中に学齢期の子どもがいるという事実は衝撃的だった」と話します。その子どものケースでは、小学校の担任と何度も話し合い、「お母さんをデイサービスに迎えに行った際、学校にいるはずの子どもが家にいるようであれば学校に連絡をする」等、なぎさ和楽苑側でもできる範囲で支援を行いました。また、出産を機に高次脳機能障害になった女性とその乳児に対して、保健師や保育所と連携して、子どものお迎えや育児に関する支援を行ったこともあります。
池田さんは、「若年で発症したケースでは家族への影響がより大きく、課題も複雑化している場合が多い。一法人で解決できるものではなく、今までつながりのなかった機関・団体等とも連携する必要がある」と話します。
家族の気持ちに寄り添って支援する
あしたば会では、若年性認知症を地域に知ってもらうため、平成27年からなぎさ和楽苑内で「あしたばカフェ」を定期的に開催しています。認知症当事者とその家族が安心してすごせる居場所を提供するとともに、地域の方にも喫茶スペースを開放することで、気軽に立ち寄り、認知症について理解を深めたり、専門家に相談できる機会となっています。
池田さんは、「『あしたばカフェ』が今まで見えていなかった地域のニーズを発見する場になればと考えている。今後は若年性認知症の枠にとらわれず、何らかの形で家族の介護に携わっている若者への支援を実現したい」と話しました。
http://www.tokyoeiwakai.or.jp/nagisa/