山口里佳さん(左)と支援係長の藤巻佳子さん

活動を重ねて気づいたメジロックらしさ

目白生活実習所と目白福祉作業所では、アートを通じて障害のある利用者による表現活動を行っています。「メジロック」というブランド名で行うこの活動は、福祉作業所でつくる商品を、より広く手に取ってもらえる「かっこいい」ものにしようと２０１５年に始まりました。ブランド名には、音楽の「ロック」という意味が込められています。作業所で活動しているメジロック広報担当を自任する高橋健太さんは、「つくり手それぞれの『いし』でやろう、という思いがこもっている」とも解釈しているといいます。

当初、メジロックの商品のターゲットは、一見福祉から遠い存在に思える「フェスが好きな20代男性」でした。しかし、活動を重ねる中で利用者のパワフルで明るい雰囲気がメジロックらしさでもあることに気づき、黒を基調としたロゴや商品から、カラフルなイメージに変わっていきました。

現在、月３回の「アトリエ活動」を中心とするほか、近隣の保育園に通う子どもたちと共に表現活動を楽しんだりコミュニティスペースで展覧会を催したり、地域との交流も大切にしています。

メジロック広報担当を自任する高橋健太さん

「かっこいい商品づくり」から「自分らしい表現を見つける」へ

支援係長の藤巻佳子さんは「利用者の中には、発話がなく、表情を読み取ることが難しい方や自己表現が苦手な方もいる。初めは商品をつくるための活動だったが、段々その人らしい表現を見つけることを大切にしようと変化してきた」と経過を話します。イラストや織物、カラフルなゴムを編んだ作品、率直な思いを詠んだ詩など、利用者は思い思いの表現を模索し、楽しんでいます。自分の心地よい表現を楽しむようになり、施設全体の雰囲気もより明るく活発になっていったといいます。

DJブースをモチーフにしたイラストを多く制作している根岸龍さんは、休日に散歩がてら出かけた公園でDJの練習をするほど音楽が好きという熱い思いが作品にもつながっています。すべての線を定規を使って描く作品づくりについて、根岸さんは「曲線を描くのが難しいところ。何かを見て、というより、頭の中に浮かんでいるものを描いている」と話します。藤巻さんは「以前は、『自分は障害者だから』というネガティブな発言も多かったが、絵を描くようになり、笑顔や穏やかな表情が増えた。（取材当日にも）誇らしげに自分の絵について話している姿を見られてうれしい」と話します。

根岸龍さん
このスペースでいつも絵を描いている

根岸龍さんの作品 モチーフはDJブース

その人が輝く瞬間をともに見つける支援

コーディネーターであり、施設外部の視点から活動をサポートする山口里佳さんは「作業所では受注作業を中心に活動することが多い。表現することも活動の一部として、その人らしい表現ができるよう現場では試行錯誤してきた。職員の努力も積み重なって、今のメジロックがある」と話します。

活気にあふれる生活実習所と福祉作業所ですが、前例のない活動でもあるため、戸惑いや、工賃に直結する活動に時間や手間をかけた方が良いのではないかという葛藤を感じる職員もいるといいます。しかし、活動を続けるうちに、日常の中で生まれるその人らしい表現をともに楽しんだり、新たな気づきを共有し合ったり職員の意識も次第に変化が生まれ、活動の意義が根付いてきているといいます。

藤巻さんは「利用者の思いがけない一面を知ることで支援を深めることができ、やりがいにつながることもある。問題行動やできないことなどマイナスな部分ばかりを見るのではなく、『その人だからできること』『その人が良い顔をしている時はどんな時だろう』と考え、サポートする姿勢を大切にしていきたい」と思いを語ります。山口さんも「アート活動をすることが目的ではなく、その人らしく居られ、表現できる場をみんなで創っていくのがメジロック。それを社会に届けていくところも外部ならではの目線でサポートしていきたい」と話します。

大胆な筆遣いですすめます

織物をつくりました

カラフルなゴムをフォークを使って編んでいきます