熊本県/平成30年3月現在
「やっていけるかもしれない」を積み重ねていく
熊本地震では、職員も大きな被害を受けています。発災後すぐ、多くの職員が自主的に出勤しましたが、そのように強い使命感を持つ職員だけに、利用者のことも自分の家族や生活のことも両方何とかしなければならないと考える心理的負担は大きなものでした。今、ここで倒れるわけにはいかないという切迫した心境について井上さんは、「学園まで車を運転しているときも、『もし、ここで事故を起こしたらどうしよう』という不安でいっぱいだった」と話します。発災から4か月後に法人内の労働安全衛生委員会が職員に行ったアンケートでは、約6%が「仕事の継続ができない」と感じた旨回答していることからも、その疲労の深さが伺えます。
心の状況は復旧へのモチベーションにも大きく影響します。「自分が『怖い』と思うと、『これは危ないから、利用者にも危ない』という“職員と利用者の同一視”がはじまり、何に対しても後ろ向きになりやすくなってしまう」と、井上さんはその心理を説明します。
城南学園では、施設が全壊したB棟の職員の気持ちの落ち込みと不安が特に深刻でした。そこで、B棟の主任とA棟の主任及び、地震後から夜間・休日の生活の場になっている生活介護事業所サポートの所長に加え、他の事業所の所長をアドバイザーで交え今後の方針会議を開催しました。「城南学園の入所事業という一事業の話ではあるが、A・B棟の担当者による1対1の話し合いにはしなかった。さまざまな立場にある人が集まることが大切だと考えた」と井上さんは話します。そして、通常は完全に勤務が分かれているA棟とB棟の職員配置の枠を取り、B棟の職員にA棟勤務をしてもらうことにしました。違う環境に移り、困難な状況の中でも何か一つ「できる」ことがあるということに気づいたB棟の職員は、「やっていけるかもしれない」と少しずつ前を向けるようになっていきました。「『できる』という自信をつけるには、まず一歩踏み出すことが必要。その機会をどうつくり、増やしていくかが大事だと思う」と井上さんは言います。
また、マッサージや県外への日帰り旅行、銭湯の無料サービスなど心身のケアになる企画を提供してくれたボランティアの存在にも助けられました。
職員間の安否確認には、発災当時から通常とおりに使用できたLINE(ソーシャルネットワーキングサービス)が役立ちました。固定電話や携帯電話が使用できない中、LINEは通話機能も支障なく使えました。この経験から震災後にLINEグループを作成しましたが、今後の活用にはセキュリティ面への考慮が必要だと、井上さんは話します。利用者の家族と連絡をするLINEグループも立ち上げましたが、高齢の家族にはLINEを利用できる環境にない方もいて、連絡の取り方はこれからもさらに検討が必要となっています。
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