NPO法人Jin
避難指示解除の日。それは、昨日から続く今日。そして、復興の明日への通過点 ~震災前からの「利用者主体と地域生活」の理念を貫く~
掲載日:2018年9月12日
ブックレット番号:7 事例番号:82
福島県浪江町/平成30年3月現在

復興に向けたまちの魅力は、輝ける人たちの自立の営み

平成29年3月31日に避難指示が解除された浪江町。人口21,400人(避難したとき)のうち、浪江町に帰ってきて暮らしているのは482名です(平成29年12月末現在)が、行ったり来たりしている人もいます。

浪江町では、現在、5つのサポートセンターを設置しています。福島市の仮設住宅付近に1つ、二本松市の2つの復興公営住宅内に2つ、そして、浪江町内に2つです。NPO法人Jinでは、このうち、福島市、二本松市、浪江町でそれぞれ一つずつのサポートセンターを運営しています。

 

表 浪江町のサポートセンター(平成29年11月現在)

  名  称 所在地 運営主体

浪江町サポートセンター根柄山

浪江町サポートセンター石倉

浪江町サポートセンターふくしま

浪江町一樹サポートセンター

浪江町サンシャインサポートセンター

二本松市

二本松市

福島市

浪江町

浪江町

NPO法人Jin

(福)博文会

NPO法人Jin

NPO法人Jin

浪江町社協

 

川村さんは、「困っている人がいないと仕事にならない福祉では、困っている人を探して作ってしまう。サービスが必要な人だけの空間になってしまっては、復興にはつながらない。いろんな人がいてお互いに助け合いが生まれる」と、話します。浪江町でJinが運営するサポートセンターでは、サポートセンターを利用しに来た高齢者がその人の持っている技術を発揮して、農園を手伝ってくれることもあります。また、あるとき、「復興住宅に暮らす要介護者がお風呂に入れないので、サポートセンターで入浴させてほしい」という依頼がありましたが、行ってみると、「復興住宅のお風呂にあるスイッチが難しくて入れないでいる」とのことでした。

 

「ないものねだりではなく、あるもの探しをしていきたい」と、川村さんは話します。支え手と受け手という関係でなく、戻った人が支え合うことができるようにしていかなければ、まちの力は復興にすすむことができません。川村さんは「豊かな生活と誇りの回復には、『働く』ことが大切。それは『生きがい』『余暇』ではなく、高齢者、障害者であっても、社会の中で生涯現役として『稼ぐ』存在になれること」と指摘します。

 

そして、「花が癒やしになるのは、1年もあれば、それで十分。今は、日本一の花づくりをめざし、クオリティの高い花をつくることがまちづくりにつながる」と話します。復興を歩むまちに必要なのは「自立」です。清水さんがかつて「同じことをし続けないようにしよう」と感じたように、復興をすすめるステージに「福祉」が関わり方を誤れば、むしろ、「自立」を阻害しかねないものとなります。

 

花づくりには技術も必要なので、高齢者、障害者には野菜づくりに活躍しています。その野菜も、「買ってもらう」というものではなく、商品として市場できちんと評価されるものを作り、好評を得ています。

 

浪江町サラダ農園では、県外の大学生に呼びかけて、農園を手伝ってもらう取組みもしてきました。それは、「若い人が魅力に感じるのは何だろうか」を知る機会でもありました。「輝く点になれれば、興味関心を持ってもらえる。まちの魅力は、人」と、川村さんは話します。その「人」の集まりは、地元の人だけでなければならないとも限りません。

 

浪江町サラダ農園の隣には、平成30年度からスタートする「認定こども園」と「小中一貫校」も完成しました。子どもたちにとって、農園の営みが社会活動を考える場につながるかもしれません。一方、外から見る大人は、何人の子どもが帰ってくるかと、考えがちになってしまいます。大人が考える『ふるさと』の想いは、子どもにとっては違うかもしれません。新しい人も入ってくるような魅力ある未来のある地域であること。それが、次世代が求めるものとなってきます。

 

京都女子大学家政学部生活福祉学科教授の太田貞司さんは「サラダ農園の実践は、遠く離れた学生たちの心にも響いている。福祉の学びに悩む学生に気づきを与えてくれる。Jinは、人が集まる町になる『自立』というめざす目標にきっとたどり着くにちがいない」と話します。

 

今を生きる世代から次なる世代までもが、受け手や支え手としてではなく、自己実現の選択肢を持つことのできる地域づくりが復興のステージには大切な視点となっています。そして、Jinの実践をふり返ると、震災前からの理念の「利用者主体と地域生活」の理念と全く変わらないものとなっています。平時から、制度の枠組みにとらわれることなく、一人ひとりの自己実現と地域づくり。それと向き合ってきた「力」が、その原点にあります。

 

川村さんは、「事業所再開」にあたって、今、取組むべきことと、陥ってはならないことを職員に説明しました。福祉職のあるべき姿。それを川村さんは「地域のためになっていると思わないと、エネルギーにならない」と表現します。

 

中央:京都女子大学教授 太田貞司さん

 

 

取材先
名称
NPO法人Jin
概要
NPO法人Jin
浪江町サラダ農園
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