発災後、事業所に近づくことができなかった
JR山陽本線本郷駅の東側に位置する障害福祉サービス事業所とよの郷は、就労継続支援B型事業所と就労移行支援事業所です。一般就労が可能と見込まれる知的障害者に生産活動、職場体験、その他活動の機会を提供し、就労に必要な知識や能力向上に必要な訓練などを行っています。
とよの郷所長の岡田文江さんは「7日の早朝に事業所の様子を見に行こうとしたが、いたるところで土砂が道をふさいでおり、たどり着くことができなかった」と振り返ります。近所の方から連絡を受けた職員が同日午後5時頃にバイクで様子をうかがいに行きましたが、浸水のため事業所に近づくことができなかったといいます。岡田文江さんたちがようやく現場の様子を確認できたのは、水が引いた8日の午前中でした。それでも「普段は30分で行ける距離だが、迂回していかなければならなかったので2時間かかった」と言います。
現場確認により、事業所内は床上20cm、倉庫内は55cm、屋外は75cm程度浸水していたことがわかりました。また断水していることも確認したので、事業所にあった水やみどりの町が運営する別の事業所で作っているパンやラスクを持って、地域で一人暮らしをしている利用者を訪ね歩きました。さらに電話での安否確認も行いました。
給水支援とシャワー支援を開始
三原市内の具体的な被害状況がわからない中、9日から3日間は事業所を休止し、出勤できる職員が片づけや清掃を行いました。また、本郷町を含む地域では断水が続いていましたが、とよの郷では井戸水を引いていたため、水に困ることはありませんでした。そこで利用者や職員、地域住民を対象に給水支援や事業所の浴室を活用したシャワー支援を開始しました。さらに10日には炊き出しも実施しました。
給水等の支援について岡田文江さんは「ボーリング水でよければ使ってくださいと、市役所の本郷支所や病院、社協などに伝えた」と言います。そして「何かしていないと不安でじっとしていられない。不安なんだけど体が勝手に動く。地域に出向いて何かしたくても、今できることは水を分けてあげることだと考えていた」と話します。岡田雄幸さんは、「ここよりひどい被害を受けているところへ何もできなくて、もどかしさがあった。しかし、水を渡せたことで困っている人に喜んでもらっただけではなく、地域の人たちにとよの郷を知ってもらう機会にもなった」と話します。
事業所は早期に再開し、移動の困難はありながらも再度、利用者を受け入れることができました。被災後、利用者の大半には大きな変化は見られませんでしたが、作業中にぼーっとしてしまう方なども見られました。「非常にぼんやりした様子で、『近所に知り合いもいないこの不安な生活がずっと続くの?』と不安そうに見えた。結局、一人暮らしをしていた家をはなれ、事業所近くのアパートへ転居することになった」と岡田文江さんは言います。入居の際には職員が同行して町内会や民生児童委員にあいさつをし、地域とのつながりづくりのきっかけとなるサポートを行いました。
また別の法人の利用者では、水や電気が使えない夜間、真っ暗になると不安が増すため、短期入所などを利用するケースもあったといいます。被災後の生活において、さまざまな影響が出てくることがうかがえます。
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