日頃の営みの中で育む“おたがいさま”の気持ち
森永さんは今回の対応を振り返り、「複数の施設や事業所を運営するなかで広範囲に災害の影響があると、職員だけですべてをやりきることは難しい。今回も利用者を避難所へ連れて行ってくれたのは大家さんだし、近所の方も声掛けをしてくれた。法人としてできることはやりつつも、近所の方にしてもらえることがあればしていただく。リスクを分散して地域の中で生きていく雰囲気を作ることが大切。助けを求める、求められるような関わりを地域と持てれば」と話します。
地域からのあたたかい声かけやおにぎりなどの差し入れ、また職員派遣等の支援について岡田文江さんは「普段、私たちは支援をすることには慣れているけれど、支援してもらうことには感謝しつつどこか戸惑いがあった。日頃の営みの中で“おたがいさま”の気持ちを持っておく必要がある」と話します。
おたがいさまの気持ちは、住民や支援者だけではなく、職員にもあてはまります。職員の中にも自宅などに被害を受けた人はいましたが、本人は「大丈夫」と言い続けていたといいます。周りの人に確認したところ大丈夫ではない様子だったので、水や食料、衣服を持って自宅を訪問したそうです。「絶対困っているはずなのに、言わない。困ったときには困ったと言えるように、普段から慣れておくことが大切。そうしないと、いざというときに発信できない」と岡田文江さんは言います。
法人では地域とのつながりをつくる取組みとして、地域の方も参加する「ふれあいまつり」を毎年開催しているほか、とよの郷では年1回マルシェを、グループホームでは地域の清掃活動に利用者と一緒に参加するなどしています。こうした取組みは、今後も積極的に行っていくことを考えています。
具体的な情報発信と受援力の大切さ
みどりの町では、発災直後からしばらくの間は情報が入らなかったといいます。「ケーブルテレビが寸断されてテレビが見られない、携帯やインターネットも使えない、新聞も届かない。ラジオは使えたが地元の情報が入らない。今自分たちが置かれている状況がまるでわからなかった」と岡田雄幸さんは振り返ります。しかし、「情報が入ってこない分、冷静でいられたのかもしれない。報道される段階ではもう状況が変わっている。昨日通れた道路が翌日には通れないこともあり、職員の口コミの方が情報源として確実だった」と森永さんは言います。
発災後は状況が刻々と変化するため、情報の収集や発信にも影響があります。森永さんは「ただ単に『助けてください』ではなく、何がいつどのように必要かといったことや、『○○が欲しい、○○のようにしてほしい』と具体的な支援内容を発信する力が必要」と強調し、そのうえで「人の力を借りるスキル、受援力が大事になってくる」と言います
今後の取組み
みどりの町では発災直後、目の前の状況を解決することに精一杯で、法人全体で職員の安否確認をするという認識まで至りませんでした。職員の中には被災した人もいましたが、業務に支障が出ないよう道路状況等が悪い中でも多くの職員が出勤していました。水害時の職員参集マニュアル等はありませんでしたが、福祉職としての責任感から取った行動でした。今後、職員の安否確認や参集基準についてマニュアルを作成する予定です。
また法人本部に隣接する入所施設で生活する100人近い利用者を災害から守るため、ボーリング水を確実に供給できるような電源の確保等も検討をすすめています。
他にも、とよの郷の隣に31年4月に新規開設する入所施設「(仮称)ルネサンスほんごう」の建物を当初予定から50cmかさ上げすることとし、災害時対応の実績がある給食事業者を選定するなど、今回の水害をふまえたさまざまな取組みをすすめています。
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