あらまし
- 地域の中でコーディネーター等を名称とする職種が増えてきています。今般の生活困窮者自立支援法施行や介護保険法改正においても、地域内で総合相談を受けコーディネートを行う新たな職種の配置が打ち出されました。本号では、地域づくりを実践するそれぞれの立場から、コーディネーター等の基本的な役割・機能および活動の視点について考えます。
都内区市町村社協において、平成27年1月現在「地域福祉コーディネーター」または「コミュニティソーシャルワーカー」という名称の職員は14社協に配置されています。一方、生活困窮者自立支援法では「生活困窮者自立支援員」、介護保険法改正では「生活支援コーディネーター」の配置等、地域に新たな職種が登場しています。また、社会福祉法人が社会貢献等の観点からコーディネーターを配置する動きも出てきています。
神奈川県立保健福祉大学の山崎美貴子名誉教授はその背景について、「社会的帰属がない方の増加や社会的孤立等、人々の暮らし方も地域ニーズも多様化し複雑化している。また、家族内の複数人へそれぞれ別の支援が必要なケースもあり、自己完結型の事項別縦割相談や支援だけでは対応しきれない。複数機関が協力し隙間をつくらず多面的な支援をしていくためにこそ、それぞれがコーディネート役を担い、ネットワークをつくることがいま求められている」と言います。
住民が動き出すしくみづくり ―文京区社協 地域福祉コーディネーター
文京区社協では、24年から4年間の地域福祉活動計画を策定し、「小地域福祉活動」の推進を最重点事業に位置付けました。そして、専門職として「地域福祉コーディネーター」を日常生活圏域に1名ずつ順次配置することとし、24年度は駒込地区にモデル事業として1名、26年度に富坂地区に1名配置しました。27年4月からは区内全域(4圏域)に
各1名の配置となっています。
活動4年目をむかえる駒込地区地域福祉コーディネーターの浦田愛さんは、「地域福祉コーディネーターを配置することで社協がフィールドに出るようになった。社協としては、個人へ寄り添う直接支援だけではなく、地域住民や関係機関・団体、行政と連携して個人を支援する間接支援を大切に考えている。地域福祉コーディネーターだけで解決しようとせずに、必ず誰かに ”あえて“相談する。民生児童委員、専門職、近所の人たちとつながると、日常生活での見守り等、地域の動きにつながる」と話します。(表)
駒込地区町会連合会主催の地域の居場所「こまじいのうち」は、地域団体の関係者やボランティアが参加する実行委員会により企画が行われ、25年10月にスタートしました。26年度の参加人数は約4千500人でした。高齢者から小中高生や未就学児までさまざまな世代が、参加者にもプログラムを提供する担い手にもなりながら居場所を支えています。
「こまじいのうち」は、発展し続ける居場所というところに特徴があります。例えばゴミ屋敷の住民への関わり等、地域福祉コーディネーターによる複雑な課題を持った個人への支援を、居場所に集う住民と一緒に行う中で、地域の高齢者等のちょっとした困りごとを助ける「助っ人隊」が立ち上りました。また、見学の受入れや、居場所立ち上げプロセスの説明・相談等を行う中で、他地区の居場所立ち上げ支援も行えるようになってきました。そして、当初は地域福祉コーディネーターが担っていたボランティアコーディネート業務を、オープンから3か月後には、毎日子どもと来ていた住民にお願いしました。
浦田さんは、「『何かあったら助けるよ』『面倒なことはひきうけるよ』と常に伝えることで住民は安心して活動できる。そして、『これくらいなら負担なくできる』という活動の幅がどんどん広がってきている」と立ち上げ支援、運営支援の後に住民主体の動きが拡がってきていると話します。こまじいのうちが、「居場所」から「何かあったら助けてくれる存在」へと地域の中で変化してきています。
法人の課題共有から地域とつながる ―社会福祉法人愛隣会 ここからカフェ
社会福祉法人愛隣会は、同一敷地内に高齢・児童・障害分野の10施設があり(図1)、職員約300人、利用者600人以上の大所帯の複合施設です。26年4月より常勤専任で地域福祉コーディネーター(以下、コーディネーター)を法人本部に配置し、都市型軽費老人ホームの6階には地域交流スペース「ここからカフェ」を開設しました。
コーディネーターの業務は、提供するサービスの中で把握したニーズや課題および課題解決のために行ってきたことを、まずは法人内で共有し、QOLやQOCの質の向上につなげます。そして、社会貢献の観点から、地域で生活課題を抱える方にその情報を提供し地域と法人がつながっていくことをめざしています。コーディネーターの平井美香さんは、「法人内も一つの地域、家族。施設内のニーズを把握するアンテナを持ちながら、利用者や利用者家族、そして職員が抱えている思いや課題を受け止め、そこから見えてくるものを地域に情報発信していくことをめざしている。現在は、施設の種別を超えた課題の共有を行っている」と話します。
法人内にある訪問介護ステーションの責任者との話で、「訪問した職員が時間通りに帰してもらえない」「後ろ髪をひかれる思いで帰って来る」という話がありました。在宅で生活する方は独居が多く、話し相手が欲しい様子が見えてきました。要支援1・2の高齢者の課題や悩みに対してどの様な支援ができるか情報交換の場をつくり検討をしています。また、コーディネーターが積極的に地域の行事に参加する中で、徐々に地域の方たちとも顔が見える関係になってきています。
平井さんは「ここからカフェは、地域の人も含めて一人ひとりが自分らしく生きることのできる社会を実現できるように『人と人とが寄り添う場所』をめざしている」と話します。
地域のアンテナを拡げる ―東村山市北部地域包括支援センター
地域包括支援センターでは、担当地域の主に高齢者を対象とした、個別支援に留まらない地域づくりも本来業務に位置づけられています。
東村山市北部地域包括支援センターでは、数年前から担当地域内に認知症のケースが増えてきているのを実感し、認知症になっても暮らし続けることのできるまちをつくるために東村山市社協まちづくり支援係、日本社会事業大学の先生と共に「まち・ひと・認知症マッチングプロジェクト」を立ち上げました。当面の課題として①住民の認知・理解については、市民向けの公開講座を行い、②環境面に焦点を当てた認知症高齢では、住民グループでまち歩きをしながらマップ作りを行い(図2)、「買い物が不便」「道路が狭い」等、住民の目で見たまちの気づきを共有しています。
センター長の鈴木博之さんは、「市内13町を5つの地域包括支援センターが担当している。地域で気になる課題をみつけても職員5人の体制ではできることに限界がある。制度では支えきれない課題について、住民を含めた支援のチームができたらいいと思っている。取組みを通じて『地域のアンテナ』の拡がりを実感する。個別支援からも地域は見えてくるが、住民と直接話すとまた違った面が見えてくる」と話します。
東村山市では3年前から、まちごとに地域懇談会が実施されています。鈴木さんは、「マップ作りを、あえて地域懇談会が開かれていないまちや活発でないまちで実施している」と話します。そして、プロジェクトを協働している東村山市社協とは「お互いの視点や支援を複数の方向から見ることで課題を見つけられ、お互いが日常的に持っているネットワークを活用した複数の切り口で住民と一緒にまちのことを考えられている」と、他機関との連携・協働、そしてネットワークを重ねていくことで生まれる効果について話します。
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これらの事例をふまえて山崎名誉教授は、「地域のニーズに気づき発見するには、小地域単位で身近なニーズにアウトリーチすることが基盤となる。縦割りを超えてそれぞれが支援ののりしろを広げ、接着剤の役割を担うという機運が出てきている。これからは、地続きで個別ニーズへの支援と地域への働きかけを一体的にとらえた ”支援の面“を地域で作っていく視点が重要となる。その兆しは見え始めている」と言います。
地域の中でのコーディネーター等の今後の動きに注目が集まっています。
http://www.bunsyakyo.or.jp/
(社福)愛隣会
http://airinkai.org/
(社福) 白十字会 「東村山市北部地域包括支援センター」
https://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/shisetsu/korei/chiiki/hokubu.html