あらまし
- 介護保険法改正に伴い、平成27年4月から新たな介護予防・日常生活支援総合事業(以下、新しい総合事業)が段階的にスタートしました。要支援者への給付のうち訪問・通所介護を同事業に移行し、住民ボランティア、NPO、民間企業、協同組合等の多様な主体による支援が展開されます。今号では、住民がいきいきと活動している3つの事例を紹介し、住民が主体的に地域づくりをすすめる可能性を考えます。
2025年(平成37年)には、団塊の世代全てが75歳以上になり、単身高齢者や認知症高齢者が増加します。一方、生産年齢(15~64歳)人口は継続的に減少し、支え手側の介護職員等の専門職は、要介護高齢者の増加に対応できるほどには期待できません。特に大都市では急激な変化をもたらします。
介護保険法改正において、新しい総合事業が示され、要支援者への予防給付のうち訪問・通所介護は、区市町村が行う地域支援事業に平成29年度末までに移行することになりました。現在の介護サービスに加え、地域の実情をふまえて、基準を緩和したサービス、住民等による生活支援、短期集中予防サービス等、多様に展開されます。また、サービス提供主体は、現行の介護事業所に加え、住民ボランティア、NPO、民間企業、協同組合、社会福祉法人等、多様な主体の参画が目指されています。新しい総合事業に移行することで、住民等が意欲的に活動している取組みを介護保険の財源を活用して推進できる可能性もあります。
「食」を通して地域を支える― 武蔵野市 コミュニティ食堂
武蔵野市にあるURサンヴァリエ桜堤団地では、自治会と武蔵野市桜堤ケアハウス(社会福祉法人武蔵野が運営)が連携しながら団地集会室でコミュニティ食堂「よりあい食堂かよう」を毎週火曜日に開催しています。毎回30名程が参加し、ガラス張りの明るい部屋で、手づくりの食事を食べながら会話を楽しんでいます。1食500円で栄養バランスのとれた美味しい食事が食べられます。参加者は主に自立している高齢者ですが、介護サービスを利用している方、認知症症状がある方も参加しています。在宅介護支援センターの職員らが食後にテーブルをまわりながら会話し、介護保険サービスにつながったケースもあります。
夫婦で参加しているAさんは、夫が認知症を発症し、介護サービスやミニデイも利用しています。Aさんは「『かよう』等のランチを利用することで昼食を用意する負担が減った。スタッフの中には認知症サポーターの『オレンジリング』をつけている人もいるので安心できる」と話します。ボランティアスタッフは「毎週だと負担感があるけれど、これくらいならちょうどよい。急に休む必要ができた場合は、自治会役員さんが代理を打診してくれる」と話します。
「かよう」の運営は自治会役員・事務員が中心に行っています。会場予約や利用人数の集約、ボランティアスタッフの調整、助成金の申請手続きなどです。ボランティアスタッフは料理の配下膳を担いながら、利用者との世間話に花を咲かせます。桜堤ケアハウスは食材と食器を持ち込んで調理したり、運営がスムーズに行えるようコーディネートや総合相談を担っています。専門職が主導ではなく、地域住民の方々が中心に取組むことで、自然な近所づきあいが広がります。桜堤ケアハウス施設長の阿部敏哉さんは、「住民相互の関係性の良さを壊さないようにかかわることが大切。専門職の役割は、住民同士の関係作りをそっと後ろからお手伝いすること」と話します。自治会役員、ボランティアスタッフが気持ちよく活動できるように、あたたかく支えています
武蔵野市では平成27年10月に新しい総合事業を開始しました。市の生活支援コーディネーターも、「かよう」を通して、住民同士の支え合いづくりにかかわっています。
ボランティアスタッフのお子さんも配膳に活躍しています
市民の支え手を育てる― 神奈川県鎌倉市 生活支援サポーター制度
神奈川県鎌倉市は、人口約18万、高齢化率約30%、要介護認定者は約1万人で、高齢化がすすんでいる自治体です。そのような中で、平成25年に市民が市民を支える「高齢者生活支援サポートセンター事業」をスタートさせました。これは、市内に在住する概ね65歳以上の一人暮らしの高齢者(日中独居の方)や、要介護1、要支援1・2の高齢者に、趣味やいきがい支援、外出支援、家事支援等を行う市民をサポーターとして市がNPO法人に委託し実施しています。
サポーターは、2日間かけて行われる養成講座を受講し、鎌倉市の高齢者の状況や介護保険制度、高齢者への接し方等について学びます。40歳から85歳までの約100名が登録しており、子育てがひと段落した女性や定年した男性がいきいきと活動しています。
利用者は「庭の手入れは1人ではとても大変ですが、ご縁があって手伝っていただいてとても安心です。人と人とのつながりを感じています」と話します。利用者にとっては、自宅に定期的に人が訪れることで孤立感の解消や日常生活が豊かになるようです。サポーターは「少しでも人のお役にたてることが生きがいです。張り合いがあって、これ以上の喜びはありません。高齢者を支えるには、若い人はもちろん、世代が近いものだからこそできることも、たくさんあるんです」と話します。サポーターにとっても、自分の特技(力仕事、囲碁、家事、話し相手等)を生かして活動することで、誰かのために役立っていると実感でき、生きがいを得ることができます。
生活支援サポーター制度は、利用者とサポーターをコーディネートする際には、なるべく同じ地域に住んでいる人同士で調整しています。サポート活動がきっかけで顔なじみになり、挨拶する関係になり、それが地域のつながりづくりになることを期待しています。
鎌倉市は平成29年4月までに新しい総合事業に移行する予定です。「生活支援サポーター事業」を新しい総合事業へ移行することについては、今は検討中の段階です。市民が市民を支える ”地域の助け合い“の良さを活かしながら事業展開をすすめていく予定です。
庭の手入れを行うサポーター。楽しく会話も弾みます
多世代が集まるみんなの居場所― 文京区 こまじいのうち
文京区駒込地区にある「こまじいのうち」は、空き家を地域住民の居場所として開放した取組みです。高齢者、子育て中のお母さんと子ども、学生など多世代が集っています。囲碁カフェや脳トレ麻雀、料理作りなど、様々なプログラムをボランティアが運営しています。子育て中のお母さんが集まるゆる育カフェは、夏休みの中高生や子ども好きな高齢者等も参加しています。支え手側と担い手側の関係に敷居がなく、おじいちゃんの家に遊びに来たような居心地の良さが魅力です。
駒込地区町会連合会では「昔のように近所同士で助け合える関係を取り戻したい」「誰でもふらっと立ち寄れて、お茶を飲みながらおしゃべりできる場所があったらいいな」という話がありました。そこで町会副会長である秋元康雄さんの空き家を居場所として開放することになりました。文京区社協の地域福祉コーディネーター等が企画段階からかかわり、囲碁の団体、栄養士会、大学ボランティア、学習支援の団体、子ども支援グループ等に協力を呼びかけ共同で立ち上げました。そのため、様々な人が参加しています。
また、こまじいのうちを拠点にした新たな取組みが生まれています。こまじいのうちに来ることが難しい方のお宅に出向く「おでかけこまじい」や、地域で困っている人の支援を行う「助っ人隊」を結成し、草むしりや木の剪定等をしています。支援を必要とする人の通い場だけでなく、そこが拠点となり訪問支援も展開されています。さらに、こまじいのうちの参加者が同じような活動をしたいと、新たな拠点ができています。
こまじいのうちのマスターで町会副会長でもある秋元康雄さん
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東社協では、住民が主体的に地域づくりをしている事例をヒアリングしてまとめ、事例集を1月頃に発刊する予定です。事例集のアドバイザーである聖隷クリストファー大学教授の太田貞司さんは、「『介護サービスでなくなるから住民へ』ではなく、地域包括ケアの視点で、地域の主体的な取組み、まちづくりの視点で高齢者を支えられるかが問われている。都内においても、住民主体の活動の「芽」はすでに数多くある。自治体が地域住民と一緒になって、それらの活動をしっかり掴み、住民のニーズと想いに寄り添った取組みを育てることが大事」と課題提起しました。
http://fuku-musashino.or.jp/kourei/kourei-04.html
神奈川県鎌倉市
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/
こまじいのうち
https://www.ibasho-com.org/komajii/