小規模多機能型居宅介護事業所「いつでんきなっせ」・ 熊本県DCAT及びライフサポートチーム
DCATの活動を通して見えた「地域に戻ったあとの生活を見通して関わる」ライフサポートの視点
掲載日:2018年3月26日
ブックレット番号:6 事例番号:58
熊本県熊本市/平成29年3月現在

車中泊で過ごす避難者の中に要介護者がいた

山下さんはある時、駐車場で車中泊をしている方がいることは分かっていましたが、ミナテラスに出入りする住民から、「車中泊の方の中に要介護者がいる」ということを耳にしました。そして「若い方たちだけが車中泊と思っていたが、実際に確認するまで中に要介護者がいたとは気づかなかった」と話します。

川原さんは、「確認してみると、要介護者の家族が『余震が怖くて家に帰れない。でも、避難所にいたら迷惑をかけてしまうから』と車の中でおむつ替えをしていたり、認知症の家族が車から出ないよう必死に制止しようとする姿などがあった。駐車場には仮設トイレが設置されていたが、雨が降ればトイレに行くまでに濡れてしまうし、仮設トイレは高齢者には使用が難しい。環境を整え、どんな方でも避難所の中に入れるようにしなければと思った」と話します。

また、一般避難所内や、車中泊をしている要配慮者の中には、福祉避難所へ移ることを想定された状態の方もいました。しかし、受入れができそうな大きな特別養護老人ホームには被災した地域の方々が一斉避難をしており、空きがありませんでした。

要配慮者本人だけを県外の福祉避難所に移すという提案が医師や保健師等の専門職からありましたが、川原さんは在宅の要配慮者が家族や地域の友人と暮らし続けることを壊さずに支援したいと考えていました。そこで、避難所の中に福祉スペースを設置し、福祉避難所へ移るかどうかは本人の意向を尊重するように対応しました。

 

5月3日、ミナテラスの避難所で、生活相談を受ける「さしより相談処」をはじめました。“さしより”とは、熊本弁で“とりあえず”という意味があります。

さしより相談処には、子どものこと、障害のある方のこと、介護を受けたいといった相談、家族の行方不明、健康のこと、家がつぶれてしまった、法律のことなどさまざまな相談事が寄せられました。

さしより相談処には福祉専門職が配置され、必要に応じて専門機関へつなげる等の対応がとられました。また、避難生活が続く中で、子どもが奇声をあげるようになった、暴力的になった等、家にいるときには見られなかった様子が見られると相談を受け、子どもの遊び場をつくって子どもがストレスを発散できるようにしたりと、実際の支援を保育士が中心に行いました。

 

益城町交流情報センター ミナテラス(平成28年12月)

               

 

帰ること・その後の生活を支援するライフサポートの視点

川原さんや山下さんは、避難者をできるだけ早く自宅に帰してあげたいと考えていました。もともとは地域で暮らしていた方たちが、避難所に長くいることで受け身になりやすくなってしまうと思ったからです。

熊本市内ではいつでんきなっせに避難してきていた方の中には「ここにずっといたい」と話す方もいましたが、「最後はここで支えるからね」と声をかけて自宅の片づけを手伝い、家族の協力も得ながら避難者を自宅へ帰していきました。

益城町では6月中旬から避難所で生活していた方たちが仮設住宅へ移ることになりました。避難所で支援してきた方たちへ継続的な支援をするために、熊本県DCATは8月から「ライフサポートチーム」に名前を変えて活動を続けることにしました。「みんなの家」という集会所を使って益城町社会福祉協議会が運営する「地域支え合いセンター」を拠点に、仮設住宅を巡回する支援や、仮設住宅でのコミュニティづくり等を行っています。

 

  • 【熊本県地域支え合いセンター】
  • 負債鎮仮設住宅等における住民の方々の日常生活を支えるための見守り、生活支援、健康づくり支援や健康相談、サロンの運営をはじめとする地域交流等の総合的な支援を行う。
  • 同センターは東日本大震災の被災自治体が、被災した高齢者や障害者、生活困窮者などの孤立を防ぐために設けた「被災者サポートセンター」の熊本版。

 

山下さんは、「仮設住宅で暮らしている方と接していて思うことは、高齢者の方がとても前向きであること」と話します。また、90歳代の方がごはんをつくってみんなに配り、隣で生活する別の高齢者を気にかけて助けてあげている姿を見ていると、仮設住宅での暮らしの中で、人と人との関係づくりが大切だと感じています。

そして、「今まで地域で生活できていた人たちが、過剰な支援を受けることで何もできなくなってしまうことがある。避難者に至れり尽くせりの対応をすることは本当の支援ではないことを、支援する側が考えなければいけない」と話します。

 

その方にとって本当に必要な支援はどのようなことなのか、避難所や仮設住宅での生活を居心地の良いものにするという支援ではなく、その方が地域に戻った後を見通して関わることが大切だという“ライフサポートの視点”を、支援する側が共通の意識として持つことが、多職種が連携して支援を行うために必要です。

避難生活の中でも、地域で過ごしてきたときと同じように、できることは自分でしてもらい、できないことがあったら自分から助けを求めたりすることで、人と人が関わったり助け合うきっかけとなり、いつか日常を取り戻す日まで、避難者の元気や新しい暮らしづくりにつながっていくはずです。

 

  

ミナテラス内のギャラリー。避難していた方の作品の他、全国から

集まった復興への祈りと応援メッセージがたくさん飾られている。

 

取材先
名称
小規模多機能型居宅介護事業所「いつでんきなっせ」・ 熊本県DCAT及びライフサポートチーム
概要
特定非営利活動法人 コレクティブ
http://www.kinasse.jp/

しょうきぼどっとねっと―全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会
http://www.shoukibo.net/

タグ
関連特設ページ