(社福)東京都社会福祉協議会
創立70年記念座談会~東社協10年の歩みとこれからの地域共生社会づくり
掲載日:2021年12月8日
2021年12月号 NOW

さまざまな困難による生きづらさを持つ方々への支援~10年の歩み

市川 ありがとうございます。次の話題へ移ります。社会がこの10年間で大きく変わりました。ひきこもりの方の数が百万人という内閣府の報告も出ています。そして子どもの貧困の拡大、社会的孤立の問題も深刻です。この10年間深刻化してきた課題への対応として、生活困窮者自立支援制度の取組みをはじめとしたさまざまな支援が出てきたと思います。その中で、社協、社会福祉法人、民生児童委員のあり方も変わったのではないでしょうか。

 

「孤立」の問題に向き合う

柴山 生活困窮の背景には、やはり「孤立」という問題があります。個人が重要視されるにつれ、お互いにお互いの環境が分からないまま生活することも増えました。従来の家族の機能が弱くなっている今、孤立の問題をどのように考えるかは難しいことです。仏教では「共生(ともいき)」という考え方が受け継がれています。これは親から子というように、世代や時代を超えてその心が引き継がれているという考え方です。人はそうした存在である以上、お互いを支え合うということを大切にしていかなければなりません。個人の尊重はもちろん大事なことですが、人と人の関係のつながりを周りが支えることがやはり大切ではないかと思います。それと同時に、家族に限らず地域の子を地域で見守る、家族に対しても親も子もゆとりを持てるような生活を皆で支えていくということが必要なのではないでしょうか。

 

東社協の地域福祉部では、令和3年6月に都内社協を対象にアンケート調査を実施し、コロナ禍で顕在化した地域の課題を把握しています。一つはコロナ禍が長引くことで、高齢者や障害者の外出や交流の機会が減り、孤立がすすみ、心身の状況に与える影響が大きくなっているという課題です。子どもにとっても長く続く非日常は、発達に影響があるのではないかと思っています。二つ目は、これまではぎりぎりの生活ができていた方の生活が不安定になってしまっていることです。そうした方々は、元々抱えていた課題があり、地域からの孤立もその一つですが、コロナ禍でその課題が持ちこたえられなくなりました。外国籍住民の厳しい生活実態も見えて来ています。

 

こうしたさまざまな課題は、社協だけで迅速に解決することは困難です。東社協は、地域福祉推進委員会の「最終まとめ」(平成31年3月)や、現在検討中の次期中期計画(令和4年から6年の計画)の中でも社協、社会福祉法人、民生児童委員、この「三者連携」を取り上げています。こういったネットワークを活かして解決していくことが、今、必要な時期にあると思われます。

 

市川 地域においてさまざまで困難な生活問題が生じていることに対しては、福祉におけるセーフティーネットの再形成と、新たな絆の創造を一つの方向として見るべきではないでしょうか。それぞれの社協が、それぞれの地域で絆を作っていくことが求められているのではないかと思います。

 

品川さんは社会福祉法人の視点からどのようにお考えですか。

 

生活困窮者自立支援制度に対する社会福祉法人の役割

品川 生活困窮者自立支援制度が創設された背景にはいくつかの要因がありますが、その一つが2040年問題です。「団塊ジュニア世代」が高齢化し、65歳以上の高齢者人口がピークを迎え、あわせて労働力人口が激減します。「団塊ジュニア世代」は、就職超氷河期の中、フリーターや非正規労働者にならざるを得なかった方が多い世代です。今でも不安定な雇用の方が多いことが特徴で、この世代が高齢化することで生活困窮者が増加することが懸念されています。また、制度創設の背景のもう一つの要因には、貧困の連鎖の問題があると思います。

 

生活困窮者自立支援制度のめざす目標は、相談者を生活困窮状態から抜け出させるといった表面的なものだけではなく、「生活困窮者の経済的・社会的自立と尊厳の確保」と、「生活困窮者支援を通じての地域づくり」の2つが示されています。

 

「自立と尊厳の確保と地域づくり」による支援のためには、その実態を知る必要があります。生活困窮者には、生活リズムの確立や生きがいの創出、緊急的な住居や住まいの確保、就労支援の課題、またその世帯に属する子どもの学習支援や居場所の問題等、支援を実施していく中でさまざまな問題や課題があります。また複合的かつ重層的な課題は既存の福祉制度等では解決が難しい場合も多く、地域で放置されている現状があります。その解決を図るためには、地域におけるさまざまな関係機関との緊密な連携とネットワークによる適切かつ有効な支援が必要です。

 

社会福祉法人による地域における公益的な取り組みが問われている今、生活困窮者自立相談支援機関と連携をし、社会福祉法人の持つ機能を生活困窮者支援に有効的に活用することや、法人自らも積極的に地域における生活困窮者支援に取り組むことが期待されていると思います。具体的には、自立相談事業、子どもへの学習支援、就労訓練事業(いわゆる中間的就労)等です。社会福祉法人はそれぞれの地域で、社協を中心としたネットワークを構築してそれに参画しているところが多くあります。こういったネットワークを活用してこのような活動を今後も更に広げていきたいと思っています。

 

また、令和3年4月から施行された「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」で社会福祉連携推進法人制度が創設されました。今後の動向が非常に注目されていますので、こういったことも見据えながら取り組んでいきます。

 

最も身近なところで課題を発見する

寺田 全国民生委員児童委員連合会が平成29年に全国の委員に対して社会的孤立をテーマにモニター調査をしました。これは社会的孤立状態にあって生活上の課題を有している人への支援の有無と、その世帯状況に関する調査でした。結果としては、4人に1人の民生児童委員に支援経験がありましたが、一方ではその支援の困難さとして、「他者との接触や専門機関からの支援を拒んでいる」「接触するまでに時間を要した」、「困りごとに合致した既存のサービスや専門機関がなく、民生児童委員個人として支援せざるを得ない」、「専門機関につないだものの有効な支援ができず、民生児童委員が日常生活上の支援を続けざるを得ない」等の内容が明らかになりました。こうした困難さはあるものの、民生児童委員の活動は行政や専門機関が把握しづらい状態にある方々を発見する上で大きな役割を果たしています。複合的な課題を有する世帯も、早期に支援につなげることで深刻化を防ぐことができますが、支援のつなぎ先の確保が難しく、解決が難しいケースもあります。

 

生活問題、福祉課題の発見力を一層高め、それらを解決するための地域の課題解決力を養っていくことが重要です。一人ひとりの民生児童委員活動から発見される地域の課題を共有し、解決に向けたしくみや活動を広げていくためには、専門機関や専門職の支援による地域のつながりや住民同士の支え合いの再構築が不可欠です。

 

それから民生児童委員の孤立も課題のひとつです。新任や任期の浅い民生児童委員も生き生きと活動できるように、チームで取り組む班活動を通して一人ではなく仲間同士でつながり支え合うことを強調しながら、一人で抱え込まない体制を作ることを目指しています。

 

それぞれの地域を耕すような「三者連携」を

山崎 コロナ禍による生活困窮対策として、生活福祉資金による特例貸付が行われています。このことによって、今まで見つけられなかった、あるいは支援が届いていなかった大勢の人たちが、社協の窓口に来るという大きな変革が起こっています。その中では、経済的な困窮者だけではなくて、さまざまな生きづらさを抱えた方、社会的な孤立、周りとつながろうとしない、そういう方々の姿が浮かび上がってきています。

 

こうした新しい状況に対して、地域福祉コーディネーターを配置して、今のような生活困窮者支援の仕掛けと一緒に、地域を耕していく取組みが始まっています。ここでは特に民生児童委員による、地域を見守り、発見し、ニーズをつないでいく役割が、非常に大きな意味を持ちます。そして社協はその調整役として、常に何をどのように変えていったら良いのか考えていなければなりません。福祉施設をつなぎ、地域をつなぎ、そして民生児童委員が地域の気付き、や地域のつながりの担い手として活動できる環境整備が必要です。社協や社会福祉法人、民生児童委員が一緒になって、その協働の関係づくりに向かって歩めたらいいと思っています。

 

生きづらさを持つ方々の支援について、ボランティア、市民活動、NPOによる新たな取組みが動き始めています。具体的には近年、「子ども食堂」で大変さまざまな動きがみられます。東京ボランティア・市民活動センター(以下、TVAC)は、工夫をこらして共に活動を始めました。無料の学習活動や小さな遊びの輪も始まっています。今大切なことは、気付き、関わり、ともにつながることです。

 

地域に暮らす人々が地域の主人公です。住民参加のもと、誰も排除しない、されない地域づくりをめざす市民力を高めあえるよう、みんなで築けたらと願います。

 

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会
概要
(社福)東京都社会福祉協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/
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