あらまし
- 東社協第3期3か年計画(平成25~27年度新規重点事業)では、「保育のしごと啓発事業」を実施してきました。保育所待機児解消のための保育所増設にともなって保育人材需要が増加する中、子ども・子育て支援新制度も施行され、更なる専門性も求められています。今号では、これから進路や職業を選択していく次世代にむけて保育所が「保育のしごと」を伝える取組みについて紹介します。
「勇気をふりしぼって挑戦してみて本当に良かった」「保育士に”なりたいな~“だったのが、”なりたい!“になった」。これらは、東京都保育人材・保育所支援センター(東京都福祉人材センター内)が実施した「高校生向け保育の仕事 職場体験」に参加した高校生の声です。
高校生に体験の場を提供
「高校生向け保育の仕事 職場体験」では、保育のしごとに興味がある都内の高校生に対し、保育所での職場体験を実施しています。保育のしごとの魅力ややりがい、そして意義や専門性を伝える機会であるとともに、将来の進路選択の参考にしてもらうことを目的としています。平成26年度に開始した本事業ですが、26年度は23校27名が参加をしました。募集人数の約10倍の申込みがあり、一定数の高校生が保育のしごとに興味を持っている状況がみられました。そこで、27年度は事業規模を拡大し、484名が196か所の保育所において職場体験を行いました。
実施後のアンケートでは、保育士のしごとに関して、「誇りをもって仕事をしている姿を近くで見られた」「とても大変だけれどやりがいのある仕事」という感想がありました。また、今まで知らなかったしごと内容として、片付けや掃除、命を預かることの大切さや責任とともに、「家庭環境、性格、苦手・得意なことを把握し、その子に合った接し方」「すべてを手伝うのではなく、意欲を持たせるように誘導したり工夫したりすること」等、具体的な専門性があげられていました。
保育のしごとを通じて職業観を育む
保育の現場では、資格取得のための実習やボランティアなど様々な方を受入れていますが、近年、職場体験として保育の現場が活用されることが増えています。東社協総務部では保育部会と連携し、会員保育所を対象に「保育所における職場体験受入れ状況に関するアンケート調査」を平成27年6月~7月に実施し、904園より回答いただきました。これから進路や職業を選択していく次世代に着目すると、小学生から高校生まで幅広く受入れが行われていました(図1)。小学生の受入れは約2割でしたが、中学生は9割、高校生では、約半数の保育所で受入れが行われていました。
中学生の受入れに関しては、文部科学省の「職業や仕事の実際について体験したり、働く人々と接したりする学習活動」に位置づけられる「中学生の職場体験」が大きな割合を占めていました。全体の回答の中でも受入れ依頼者として学校・教育委員会が最も多く約7割という回答でした(図2)。学校側が受入れ事業所に求めているのは、「勤労観、職業観を育む体験活動」です。そのため、働く姿を近くで見せ、しごとには大変なこともあるが、やりがいもあることを理解してもらうことが重要な意味を持っています。
職場体験の依頼者や手続きは様々です。「中学生の職場体験」が自治体の施策にも位置づけられている地域や、保育主管課が学校からの依頼を取りまとめ体験先をふり分ける方法もみられました。また、企業やNPOがマッチングに関わっているという回答も少数ながらみられる中、大半は、学校や教育委員会から保育所が個別に相談や依頼を受けていました。その他にも、保幼小中の連携会議や地域教育連携会議、保育所職員や卒園児・保護者など、地域のつながりを通して依頼を受けている様子もみられました。
自治体が「中学生の職場体験」の受入れ事業所と学校のマッチングに関わっている町田市では、年度初めの4月に教育委員会が市内外の事業所等に対して受入れ可否や可能な場合の時期、人数、条件等の調査を一括で行い、中学校との調整を行っています。そして、9月、11月、1月の3期に分けて20校の中学2年生が連続した5日間、職場体験を行います。
町田市教育委員会学校教育部指導課の柴田典子さんは、「職場体験は、今年で11年目となる。中学2年生の時に保育所で職場体験をした方が、保育所に保育士として就職したという話も聞く。他にも、美容師のしごとを体験し美容の専門学校にすすんだり、小学校での体験がきっかけとなり教師になったという例もある。職業観を育むことが目的ではあるが、関心や興味があることを実際に体験することで、進路のちょっとした指針や方向づけになっている様子もみられる」と話します。
東社協が実施した調査においても、保育所が小学生・中学生・高校生の職場体験を受入れる際の目的についてたずねたところ、対象年齢が上がるにつれて、保育のしごとへの関心やキャリア教育の視点が高くなる傾向にありました(図3)。高校生については、「保育のしごとに関心をもってもらいたい」は小学生の約2倍、「キャリア教育の面から『仕事をすること』を学ぶ機会にしてほしい」は、小学生の3倍以上でした。
小学生へは保育所から声かけも
小学生の場合は、卒園児を中心に本人や保護者からの依頼による受入れや、園の独自事業での受入れという回答がみられました。依頼を受けるだけでなく、「保育所から働きかけて」という回答が複数見られるのが特徴です。「卒業生に手紙配布」「卒園児に職場体験やボランティアをしませんかというお誘いのプリントを郵送」などの回答がみられました。また、「卒園児が学童利用可能学年を超え、放課後をボランティアとして当園で過ごす」という保育所もありました。
中央区にある月島聖ルカ保育園園長の高久真佐子さんは、「どの年齢の子を受入れるかで伝える内容は違う」と言います。「高校生は保育の仕事に就きたいという希望をもって体験に来る子が多いので、保育士の専門性を意識して体験してもらう。中学生は、保育士が働く姿を見せる中で、保育のしごとを知ってもらい、興味を持ってもらう。小学生は、当園では4年生から夏体験ボランティア等で受入れている。卒園生が参加することも多く、毎日来る子もいる。保育のしごとを伝えるというよりは、園児から頼ってもらったり感謝されたりする体験の中で、自分の存在意義を感じてもらっている。先生たちにとっても卒園児の成長が確認できる場となっている」と話します。
保育のしごとを伝える
今回の調査で、職場体験を受入れる中で保育のしごとを伝える際の工夫や重視している点をたずねました。職員の工夫として、雰囲気や楽しさを感じてもらうことや、保育所で働く多職種としての関わりがあげられています(表1)。そして、保育のしごとを伝える際に最も重視している点は、「子どもとの関わりを楽しく思ってもらう」でした。一方、楽しさだけでなく、うまくいかないことや、掃除、保育準備等の雑務を体験してもらうことで実態を伝えていました。また、チームで関わる専門性の高いしごとであること、命を預かるしごとであること、個人情報の取扱い等の説明にも重点を置いていました。
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職場体験は、次の時代を担う世代が保育のしごとに出会い、関心を深める機会の一つとなっています。自分たちも大切に育てられたことを感じ、虐待予防や地域の子育て支援につなげたい等、進路や職業選択だけでなく、これから地域の大人、親になっていく世代に対して保育所はメッセージを込めて職場体験を受入れています。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/index.html
町田市
http://www.city.machida.tokyo.jp/
(社福)ひかりの子「月島聖ルカ保育園」
http://tsukishimaseiluka.wixsite.com/seilukahoikuen